2018 Fiscal Year Research-status Report
目立つ音を目立たせずに創る-トップダウン聴覚情景分析で音環境に優しいサイン音-
Project/Area Number |
17K19990
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
鈴木 陽一 東北大学, 電気通信研究所, 教授 (20143034)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
坂本 修一 東北大学, 電気通信研究所, 准教授 (60332524)
崔 正烈 東北大学, 電気通信研究所, 助教 (60398097)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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Keywords | サイン音 / カクテルパーティ効果 / 注意 / 聴覚心理学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,音環境に対して悪影響を及ぼさずに注意を引くような音の特性を時空間的な側面から明らかにすることを目的としている。前年度の研究によって,音源方向に対して向けられる空間的注意が音声の聴き取りの精度を向上させ,その影響は比較的広範囲に及んでいることが示された。今年度は,聴覚の空間的注意の時間特性と,注意対象の属性の不同について検討を行った。 空間的注意の時間的特性を調べた実験では,短音で標的音声の提示位置を聴取者に教示し,注意が標的音声提示位置に常に向けられるよう仕向けた。この時,短音提示から標的音声提示までの時間間隔を変化させ,注意を向けてから標的音聴取までの聴覚的注意の時間特性を調べた。実験の結果,短音提示から500ミリ秒までは注意効果が上昇するが,それ以降は注意効果が持続,そして減少することが明らかになった。これは,空間的注意効果が長時間持続せず,注意を適宜向け直しているという可能性を示唆する。 注意対象の属性の不同による影響については,空間的に離れた位置に設置した複数のスピーカから中心周波数の異なる雑音を同時提示される聴取環境で,特定の中心周波数を持つ雑音が聞こえたか否かを判断する実験を実施した。このとき,標的雑音が出現する方向に対して注意を向けるよう教示した条件と,標的が呈示される方向とは関係なく正面に対して注意を向けるよう教示した条件の2条件を比較することで,音源に向けられた注意がどれほど聴き取りを向上させ,その注意がどれほどの空間的広がりを持つのかを検討できる。実験の結果,音声に対する効果とは異なり,両条件間に差は見られなかった。この結果は,方向によらず一様に注意が向けられていることを意味しており,空間的注意効果が対象の属性に応じて柔軟に変容することを示唆する。以上の結果は聴覚的注意に関する重大な発見であり,順調に進展していると言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今年度は,聴覚の空間的注意の時間的特性と,注意対象が言語音かそれとも非言語かという注意対象の属性の不同による影響について検討を行った。その結果,注意の時間的効果は500ミリ秒までは上昇するが,それ以降は持続,そして減少するという興味深い現象を明らかにした。これは,空間的注意効果が長時間持続せず,注意を適宜向け直している可能性を示唆するものであり,世界に先駆けてカクテルパーティ効果の時間特性を示す結果である。また,注意対象の属性の影響については,空間的注意効果が対象の属性に応じて柔軟に変容することを示唆する,挑戦的研究にふさわしいインパクトの高い成果を得ている。 更に,聴覚情報処理の脳神経基盤,高次聴覚情報処理過程の解明で有数の成果をあげている世界的な研究者であるユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのChait Maria氏や,聴覚情景分析と聴覚分凝を始めとする最新の基礎聴覚特性解明と聴力評価法への応用分野で世界を先導する研究者であるケンブリッジ大学のGockel Hedwig氏と共同研究を実施して研究成果の共有とディスカッションを実施するなど,計画通り順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は,ダイナミックに変化する聴取環境での注意について,空間的特性と時間的特性について検討していく。また,新たな検討課題として,注意を向けた音源と聴取者との距離が聴き取りの精度に及ぼす影響についても検証する。過去の研究では,ヒトの近傍に対する知覚は,遠方に対する知覚に比べて鋭敏であることが知られているため,注意の効果による距離依存性の変化,および時空間特性が受ける影響について検討する。更に,注意が特定の音に対して成長していく時間特性,空間特性等に関する聴取実験を進める。 これらの成果に基づいて,音環境に対して悪影響を及ぼさずに注意を引くような音の特性の体系化を目指した検討を進める。本年度は,より高い成果を目指し,研究の一部を国際共同研究としても推進することとし,研究者を招へいして共同実験などを進めていく。
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Causes of Carryover |
音の時間変動特性と周波数特性に着目し,音環境の特徴と妨害音の持つ音響特徴量の対応関係から音の「目立ち度(顕著性)」の推定に挑戦してきた。その結果,音の顕著性には空間性(方向や距離)も影響することが示された。空間性の利用により音の顕著性の推定精度を固めうるため,期間を延長し,音の顕著性の推定法の高度化を行ったうえで,それに基づく「目立つ音を目立たせずに創る」設計手法の確立により資しうる成果を目指すこととしたい。
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