2017 Fiscal Year Research-status Report
形質介在効果の害虫防除への応用:捕食者存在下でなぜ害虫の作物被害は減少するのか?
Project/Area Number |
17K20074
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Research Institution | National Agriculture and Food Research Organization |
Principal Investigator |
馬場 友希 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 農業環境変動研究センター, 主任研究員 (70629055)
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Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2020-03-31
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Keywords | クモ / アシナガグモ属 / ヒメトビウンカ / イネ害虫 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、水田生態系において、クモ類(捕食者)と害虫であるウンカ・ヨコバイ・カスミカメ(植食者)、作物のイネを対象に、形質介在効果(植食者の行動変化を通じた捕食者から植物への間接的効果)とその仕組みを野外調査、室内実験、化学分析など多角的なアプローチを組み合わせて明らかにする。 本年度は主に1) 野外データに基づく捕食者-害虫相互作用の検出、②形質介在効果を検証するための実験方法の確立を目的とし、調査を行った。 まず 野外データに基づく捕食者-害虫相互作用の検出については、栃木県の水田におけるクモ類、害虫の個体数の野外データを用いて、その他の要因(農法・景観要因)の影響を考慮した統計モデルを構築し、クモ類が害虫の個体数を減少させるかどうかを検証した。その結果、アシナガグモ属(Tetragnatha)の個体数が多い水田ほど、イネ害虫であるヒメトビウンカの幼虫の個体数が少ないことが明らかになった。直接的な相互作用は調べていないが、この結果は、アシナガグモ属のクモが害虫の個体数を減らしうることを示唆している。今後は飼育実験などで、クモと害虫間の相互作用を明らかにする必要がある。またイネの収量への影響については、他のデータセットを用いて検証予定である。 室内実験系の確立に関しては、実験スペースの確保、実験ケージの大きさ、イネ、昆虫、クモ類等を安定的に確保する方法について検討を行った。考案した方法を基に30年度は本格的な室内実験を行う予定である。 野外のクモ-害虫間の関係性に関する成果は学術誌BioControlに掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
科研費採択の通知時期が7月以降であったため、研究対象となる害虫類やクモ類を確保する時間がほとんどなく、予備的な室内実験を十分に行うことができなかった。また、本来研究を分担する予定だった研究者が身分変更に伴い、分担者になれなかった事も研究開始を遅らせる一因となった。しかしながら、29年度は主に野外における捕食者-害虫の相互作用の検出が目的であったため、その目的は達成することができた。30年度は当初の予定通り、研究分担者が加わる予定であり、初年度の遅れは十分に取り戻せる見込みである。
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Strategy for Future Research Activity |
29年度の野外パターンの結果を受けて、実際にクモ類が害虫を捕食することで作物被害を減らすのか、あるいは害虫がクモを避けることで作物被害を減らすのかを飼育実験を元に定量的に評価する。イネを栽培したケージに、クモを導入した処理、糊で口を塞いで害虫を捕食できないようにしたクモを導入する処理、クモをいれない処理(コントロール)の3 つを用意し、そこに害虫を放ち、害虫の個体数と活動性、さらには作物の生産性や被害などを継続的にモニタリングする。害虫の活動性を記録するため、飼育ケージ全体が映るように、デジタルビデオを設置し、その一部始終を記録する。仮に形質介在効果が存在するならば、捕食できないクモをいれたケージにおいても、害虫の行動活性が下がり、害虫による作物被害が減少すると予想される。実験に用いる生物として、代表的なクモ(アシナガグモ属、コモリグモ科、コガネグモ属)を数種、害虫としてヒメトビウンカ、アカスジカスミカメ、ツマグロヨコバイを想定しており、様々な組み合わせで実験することにより、形質介在効果の種間差・分類群間の差も検証する。また害虫がクモを避けるような行動を示した場合、その原因となる要因を特定するような実験(例えば、クモの体表面や糸表面の物質を抽出し、それに対する害虫の反応を調べる)も行う予定である。
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Causes of Carryover |
初年度は科研費の交付が決まった時点で、すでに研究対象となるクモ類や害虫類の発生時期がピークを過ぎており、研究の開始が大いに遅れたことによる。また、本来、研究分担者となる研究者が身分の変更により、分担できなくなった事も研究開始が遅れた一因である。この前年度の費用は本来使用予定であった飼育ケージの作成や実験器具(デジタルビデオ等)の購入など飼育実験系の設計に当てたい。
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