2019 Fiscal Year Research-status Report
インデックス型家畜保険の需要増加の要因と長期的な経済効果の分析
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17K20142
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
池上 宗信 法政大学, 経済学部, 教授
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Project Period (FY) |
2018 – 2020
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Keywords | インデックス保険 / 干ばつ / 乾燥地 / 家畜 / 遊牧 / 貧困の罠 / エチオピア |
Outline of Annual Research Achievements |
研究課題3(保険の長期的な経済効果)は下記の10. 研究発表、雑誌論文の2つの論文があり、ともに査読付き英文雑誌に掲載された。1つ目の論文は、保険がインフォーマルだが伝統的な互助を駆逐するか補完するかを調べた。家計Aの保険購入が、家計Aのインフォーマル互助への支出を減らさないこと、また、家計Aの互助の相手である家計Bの保険購入が、家計Aの家計Bへの互助を促進することがわかった。これらは、保険とインフォーマルな互助が補完関係にあることを示唆している。2つ目の論文は、干ばつ時の所得、乳生産の減少という負のショックを保険が軽減することを明らかにした。また、リスクに対するバッファーとしての貯蓄、家畜の保有を保険が減少させることが示唆された。 研究課題5 (牧畜家計の貧困の罠と保険需要)は、2つの論文がある。1つ目の論文は、下記の10. 研究発表、図書にあるように、英文学術書の1章として刊行された。2つ目の論文は、査読付き英文雑誌に投稿し、改訂・再提出の要望に応え、2度目の査読の結果を待っている。貧困の罠がある場合、保険によって最も便益を受けるはずの貧困の罠の閾値に近い資産を保有する家計が、インデックス保険のベーシス・リスクの存在ゆえに、逆説的に保険を購入しない、保険価格に敏感に反応すること、公的補助の効果が大きいことを示した。 研究課題4(保険需要のダイナミクス)は、2つの論文がある。1つ目の論文は、査読付き英文雑誌に投稿し、2度の改訂・再提出の要望があり、3度目の提出に向けて改訂中である。異なる販売期間の購入の間の相関は見られたが、各家計自らの学習や他の家計からの学習は見られなかった。2つ目の論文は、ワーキングペーパーの第2稿を完了し、査読付き英文雑誌への投稿に向けて改訂中である。家計自身の保険金受取も、近隣家計の保険金受取も次期の保険購入を促進しなかったことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
研究課題1(保険需要を増大させうる政策の経済実験)は、当初計画していた経済実験の実現が難しいという2018年度の調査結果をふまえ、経済実験の内容を以下のように変更した。保険販売員に保険販売活動のゴールを設定してもらい、保険会社と研究者が保険販売員にスマートフォンを通して定期的にそのゴールをリマインドし、保険販売員からは活動及び比較を報告してもらい、それに対してわずかな謝金を支払うという追加的なナッジ、インセンティブが、保険販売員の保険への理解、売上、潜在的な保険購入者に正の影響を及ぼすかという問に答えるための経済実験とした。これをふまえて国際家畜研究所と協議を継続したが、調査予定地ボレナ県における販売活動が縮小していること、国際家畜研究所と米国の研究者チームによる大規模な経済実験が実施されることから、本研究もボレナ県で実施することは難しいという結果となった。代替案として、国際家畜研究所と赤十字社が2020年度から東ハラルゲ県で実施するインデックス型家畜保険のパイロットにおいて実施可能な保険需要を増大させうる政策の経済実験を考案中である。ボレナ県の家畜保険は民間保険を個々人に購入してもらう形だが、東ハラルゲ県の家畜保険は赤十字社が購入し、家計に給付するという異なる形なので、本研究の経済実験も大幅な変更が必要となる。 研究課題2 (2017年の大幅な需要増加の要因)は、以下の理由から中止とする。国際家畜研究所が研究内容に重複のある調査概要をすでに刊行したこと、研究課題1の調査地を2017年に大幅な需要増加があったボレナ県から東ハラルゲ県に変更することが主な理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
上述のように研究課題1の進展が遅れているので、これを最優先に研究を継続する。まずは、国際家畜研究所の研究員との協議を進め、経済実験の内容に目途がついたところで、赤十字社および保険会社からの共同実施の確約をもらう。そして、国際家畜研究所との共同研究を、経済実験の実施、保険販売員調査などの研究活動の一部を国際家畜研究所に委託するという契約を締結する。2018-19年度は進展の遅れから現地渡航調査を延期したが、2020年度は経済実験のプレテストおよび本実施のために現地渡航調査を実施したい。
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Causes of Carryover |
上述の研究課題1の進展の遅れが、2018-19年度に経費を執行せずに、その分を2020年度に執行することになった理由である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上述の研究課題1(保険需要を増大させうる政策の経済実験)の実施のために、経済実験のプレテストおよび本実施のために現地渡航調査の費用、経済実験および保険販売員調査を国際家畜研究所に委託する際の謝金・費用として使用する。
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Research Products
(5 results)