2019 Fiscal Year Research-status Report
The Nature of Quakers' Decision-Making and Its Applied Possibility to Democracy
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17KK0035
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
中野 泰治 同志社大学, 神学部, 准教授 (80631895)
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Project Period (FY) |
2018 – 2020
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Keywords | クエーカー / フレンド派 / 合議形式 / ネオ・ヘーゲル主義 / キリスト教的愛 / 愛における一致 / 民主制への応用可能性 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和二年度三月より、在外研究のために渡英した。クエーカーの合議形式の性質と実情の把握のため、クエーカーの業務集会(合議を行う集会)に参加するとともに、イギリスのクエーカーへのインタビュー調査、およびアンケート調査を行い、それらに基づく社会学的分析を行う予定であった。しかし、コロナ問題による三月末からのロックダウンによって、上述のような研究・調査が実質的に行えなくなり、また、研究遂行の見通しも立たなくなった。そのため、海外共同研究者との相談のうえ、クエーカーの合議形式に関する文献調査とその理論的分析(神学的・(数理)社会学的分析)にテーマを変更することにし、現在は文献調査を遂行している段階である。なお、ロックダウン解除の時期によっては、クエーカーへのインタビューとアンケートも行い、理論だけではなく、実践的側面についても調査する予定である。 研究成果:二ヶ月の文献調査の結果、現代のクエーカーの合議形式を巡る言説には、(1)自己(内なる神性)と大いなる自己(神)との一致の認識により、導きが与えられ、その導きに基づいて物事を決定するとするネオ・ヘーゲル主義的理解に基づくものと、(2)愛(敵対者への愛)の教えに基づき、異なる見解に最大限に開かれることによって、見解の一致を目指すキリスト教的な言説が存在することが分かった。 本成果の重要性:これまでクエーカーの合議形式に関する研究には、合議形式を単に叙述的に説明するものやハンドブック的なものしかなく、理論的な深い分析を施したものは、イエズス会の合議形式の復興のためにクエーカーの合議形式を参照したM.J.Sheeranの研究以外はほとんど存在しない。上述のようにクエーカーの二種類の言説を特定したことはこれまでにない発見であり、クエーカーの合議形式の性質の把握と民主制度への応用可能性について検討するための十分な出発点となりうるものと考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在、17世紀から20世紀までのクエーカーの合議形式に関する文献の調査を行っている。そのなかでも特に世俗(たとえば、Quaker United Nations Officeなど)の意思決定にも応用されるようになった現代クエーカーの合議形式に関する文献を中心に研究している。現代のクエーカーの合議形式に関する文献は、マニュアル的なものや事例紹介的なものが多く、そこに見られる言説はおおむね(上述の)二種類に分けられるものであり、それぞれの言説の内容の把握自体はそれほど難しくない。その点で、クエーカーの合議形式の理論的・形式的側面の理解は比較的容易であって、現時点での研究の進捗状況は順調であると言える。しかしながら、簡素な思想や形式だからこそ逆に分かりにくい面もある。つまり、そうした思想や形式は、意識化・言語化されていないより大きな枠組みを前提としており、そうした前提とは、歴史的文脈であり、時代時代の神学的・思想的潮流であり、社会状況の変化による影響といったものである。これまでの自身の研究でもそうした前提となるものを調査してきたが、こうした枠組みを緻密に検討することは時間のかかる作業であり、まだまだ未検討の領域が存在する。その意味で、本研究の進捗状況は「おおむね」順調に進展していると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
クエーカー信仰は、体験を重んじるものであるため、他のキリスト教の宗派とは異なり、伝統的に神学思想の構築は重視されてこなかった。しかしながら、クエーカー信仰が特定の思想的構造から全く自由であるというわけではない。その内容は、キリストの贖罪による恵みとしてすべての人々には内なる光が与えられており、自己を無にすることによりその光の働きに従うことで救われる。そして、救われたものはキリストに倣う者として愛の内に聖なる生活を送る必要があるというものである(愛における聖なる生活の現われの一つとしてクエーカーの合議形式がある)。こうした信仰は、17世紀半ばのピューリタン信仰の一つとして生まれ、各時代の神学的・思想的潮流や歴史的環境に合わせて大きく変化してきた。しかしながら、17世紀後半に定められたクエーカーの意思決定方法(合議形式)は、20世紀以来の自由主義クエーカー信仰に基づくものを除いて、350年の歴史においてほとんど変わっていない。今後の研究の課題として、まず(1)クエーカー信仰、およびその合議形式を歴史的文脈や周縁の神学・思想状況のなかに位置づけることで、クエーカーの合議形式の思想的性質について明確化し、(2)また、クエーカーの合議形式について現代の合意形成論や(数理)社会学の観点から比較分析し、その独自性を明らかにする。(3)そして、英米の民主制、および英米の民主制を基とする日本の民主制におけるクエーカーの合議形式の適用可能性・有効性について吟味する。
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