2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17KK0088
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
町田 洋 学習院大学, 理学部, 教授 (40514740)
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Project Period (FY) |
2018 – 2021
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Keywords | フォノンドラッグ / 熱電効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題は、固体結晶中においてフォノンがあたかも流体のように熱を輸送するフォノンの流体力学的熱輸送と、フォノンドラッグ効果を通じてフォノン流体が熱電効果に与える影響を明らかにすることを目的としている。この目的のために本課題では2次元層状構造をもつナローギャップ半導体の黒リンに注目して研究を行っている。黒リンは10K程度の低温でフォノンの平均自由行程にピーク構造が現れることや、その温度域で熱伝導率の大きさが試料サイズの減少に伴い減少するなどフォノン流体の特徴を有することが分かっており、上記の目的に適した物質であると言える。 令和2年度は、黒リンにおける熱電効果の詳細を明らかにすることを目的として、同物質で1GPa程度の圧力下で起こる半導体―半金属転移近傍でのゼーベック係数測定を最小で0.05GPaの細かな刻みで圧力を変えながら行い、半導体―半金属転移に伴う電子状態の劇的な変化がゼーベック係数に与える影響の全貌を明らかにした。 低温のゼーベック係数は半導体―半金属転移を境に減少に転じ、半金属状態においてゼーベック係数の符号が変わるとともに絶対値が2桁近くも減少する急激な変化を示すことが分かった。これはディラック的な分散をもつ黒リンの半金属状態における電子状態が加圧によって急速に変化することが、ゼーベック係数を通して捉えられた言える。また転移に伴い電子の支配的な散乱機構がイオン化した不純物による散乱からフォノンによる散乱へと変化することが、ゼーベック係数の変化を増幅させると共に、半金属状態でのゼーベック係数へのフォノンドラッグ効果を顕在化させることも明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
黒リンのゼーベック係数の半導体―半金属転移に伴う変化に加え、半金属状態において特異なディラック分散を有する電子状態とその圧力による変化がゼーベック係数にもたらす影響を詳細に明らかにすることができた。また本課題の目的の一つである、フォノンドラッグによるゼーベック係数が、半導体―半金属転移による電子状態の変化によってどのように顕在化するかについても明らかにすることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
フォノン流体の特徴は、熱伝導率やフォノンドラッグによって支配されたゼーベック係数の大きさに顕著な試料サイズ依存性が現れることにある。今後は黒リンのゼーベック係数の試料サイズ依存性を明らかにしていくと共に、同物資における半導体―半金属転移は結晶構造に変化を伴わない特徴を活かし、フォノンの流体的性質がキャリア数の増大によって電子―フォノン相互作用を通じてどのような変更を受けるのかについても明らかにしていく。
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Research Products
(2 results)