2020 Fiscal Year Research-status Report
大型プラズマ風洞を用いた再突入ブラックアウト低減化研究の深化と加速
Project/Area Number |
17KK0123
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
高橋 裕介 北海道大学, 工学研究院, 助教 (40611132)
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Project Period (FY) |
2018 – 2021
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Keywords | 惑星大気再突入 / 通信ブラックアウト低減化 / 再突入プラズマ中の電磁波伝播 / 表面触媒効果 / フィルム効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
大気再突入時に高温プラズマに包まれた宇宙機が、地上局やデータ中継衛星との通信途絶現象(通信ブラックアウト)に陥ることがある。通信ブラックアウト低減化は着地着水点の高精度予測や再突入中のデータ送受信の上で重要な課題である。これまで磁場印加や、柔軟構造再突入機、テラヘルツ波など様々な低減化手法が提案されている。いま課題実施者の研究グループでは、表面触媒性を用いた宇宙機後流プラズマ密度低下を利用することによる新しい通信ブラックアウト低減を提案している。ここでは表面効果による通信ブラックアウト低減化メカニズムおよび低減化技術の指針を見出すことを目的とする。 再突入機近傍のプラズマ諸量分布や電磁波挙動の正確な予測が難しく、通信ブラックアウト低減に繋がる知見の探索が困難な状況であった。この問題を緩和するために、再突入時における宇宙機近傍の電磁波挙動を明らかにすることは有効である。本課題実施者は、これまでプラズマ流解析・電磁波解析ソフトウェアを開発し、再突入時における宇宙機近傍の電磁波解析を明らかにしてきた。ここではそれをコア技術として、大型風洞による低減化実証と合わせて研究を推進する。 昨年度に引き続き本年度でもドイツ航空宇宙センター(DLR)に滞在し通信ブラックアウト低減化研究を実施する予定だったが、新型コロナウイルス感染症拡大防止方策に伴う海外移動制限から残念ながら断念した。一方でDLR研究者との議論は平行して行い、現所属機関(北海道大学)において遂行可能な低減化研究の実施を行った。その1つはJAXAプラズマ風洞における実証試験である。加えて上述の数値解析ソフトウェアを用いて数値解析によるメカニズム解明や風洞気流環境の調査も継続して実施した。アーク加熱風洞試験では昨年度とは異なる気流条件で低減化試験を行ったがいくつかの課題が抽出され、風洞試験の継続が必要であることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
JAXAプラズマ風洞を用いた表面触媒性による通信ブラックアウト低減化の実験的実証に加え、大規模数値解析によってそのメカニズムを明らかにしている。一方でプラズマ風洞の気流条件が従来想定していたものをことなっていた場合、低減化効果が十分に現れないことも確認された。いくつか追加試験が必要であるが、今後も数値解析と風洞実験による検証が必要である。 本課題実施中に海外研究機関DLR研究者との議論を通して新しい低減化手法の着想を得ている。それは機体表面からガスを噴出することで機体をフィルム状に覆い、そのフィルム内と後流に電磁波伝播経路を形成するものである。上述の表面触媒効果と表面フィルム効果は表面効果として1つのカテゴリーにまとめることが可能であると考えている。ここではこの低減化技術をエアフィルムによる通信ブラックアウト低減化効果と名付けた。本年度においてエアフィルム効果の確認を数値解析的手法をもって実施した。ガスの噴き出し量や風洞気流の変更などを通してパラメトリックスタディを実施し、それらが通信ブラックアウト低減化にもたらす特性をつかみつつある。 表面触媒効果の長所が明らかになりつつある一方で、表面触媒では十分な低減化効果を見いだせない条件もわかってきた。本課題を通してエアフィルム効果という新しい低減化技術につながる表面技術を見いだせたことは大きな進捗であった。
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Strategy for Future Research Activity |
依然、新型コロナウイルス感染症拡大防止方策により海外移動・滞在が厳しく制約される状況であり、海外研究機関への渡航可能性が不明瞭である。今後としては、国内に設置されている大型プラズマ風洞や数値解析的アプローチ、海外研究機関の共同研究者との連絡を密に取っていくことで、下記の研究内容を推進する。また感染状況が改善され、海外移動の制限が緩和された折にはできる限り滞在予定先研究機関に渡航し研究継続を行う。 (1)JAXA宇宙科学研究所1MW アーク加熱風洞を用いてプラズマ気流を生成し、通信装置を内蔵した試験模型を用いて通信ブラックアウト低減化の深化を実施する。これまで高触媒・低触媒1つずつのケースを対象とした実験を実施したが、試験模型の形状が低減化効果にどのような影響を与えるか調べる。合わせてこのときのメカニズムを数値解析的手法によって調べる。 (2)エアフィルムによる低減化効果の研究深化を行う。現在、数値解析的手法によって特性をつかみつつあるが、ガス噴き出し量などを対象として、より広いパラメータ空間でどの程度の低減化効果が得られるか明らかにする。その理由として、実際のフライト試験を考えた場合ガスを機体に搭載する必要があり、軽量化の観点からもそれはできる限り抑える必要があるためである。また風洞試験による実験的実証も目標とし、その準備および試験実施を行う。 (3)本課題を通して表面効果を用いた通信ブラックアウト低減化は数値的・実験的に実証されつつある。将来のステップとして重要なのは実飛行試験による実証である。それには超小型衛星などを利用した再突入試験が必要となるが、このミッションデザインについて数値解析等を利用して行っていく。このときに、様々な触媒性を有する材料を貼り付けたケースの数値解析モデル作成を行い、数値解析による通信ブラックアウト低減化を実施する。
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