2019 Fiscal Year Research-status Report
アミノ酸代謝の恒常性に関与する新奇ビタミンB6タンパク質の機能解明
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17KK0153
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
伊藤 智和 名古屋大学, 生命農学研究科, 講師 (90584970)
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Project Period (FY) |
2018 – 2020
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Keywords | ビタミンB6 / ピリドキサールレダクターゼ / ピリドキシンリン酸 / ピリドキサールリン酸 |
Outline of Annual Research Achievements |
ほぼ全ての生物に高度に保存されるピリドキサールリン酸(PLP)結合タンパク質であるYggS/PROSCタンパク質の欠損・変異は、アミノ酸や ビタミンB6代謝を中心とした代謝系に多岐にわたる影響を及ぼすことが明らかとなりつつある。例えば、ヒトにおける当該タンパク質(PROSC)の変異は、ビタミンB6依存性てんかんを引き起こすことが明らかとなっている。 我々は、当該タンパク質ファミリーの分子機能は、微生物から哺乳類まで保存されていることを明らかとしている。 今年度は、前年度に引き続き、当該タンパク質ファミリーの欠損・変異が引き起こす多岐にわたるフェノタイプの分子メカニズムを、大腸菌をモデル生物として用いて詳細に検証した。現在までに知られる大腸菌YggS欠損株が示す多くのフェノタイプ、例えば、ピリドキシン(PN) 感受性、ホモセリン感受性、セリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ (GlyA)とYggS二重欠損株の合成致死性などが、いずれも菌体内におけるピリドキシンリン酸(PNP)の異常蓄積に起因すること、特にPNPがグリシン開裂系のPLP結合を競合阻害することを明らかとしこれを以下のように報告した(Ito T et al. Appl Environ Microbiol. 2019 e00430-19.および、Ito T et al. Mol Microbiol. 2020 113:270-284.)。さらにこの過程で、E. coliが予期せぬビタミンB6動態を示すことを見出し、この要因が、ピリドキサール→ピリドキシンの反応を触媒するピリドキサールレダクターゼの存在によるものと明らかとした。本研究成果に関しては、以下のように報告した(Ito T, Downs DM. J Bacteriol. 2020 JB.00056-20.)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの解析から、大腸菌における本ファミリータンパク質の欠損の多くがピリドキシンリン酸(PNP)の異常蓄積に起因する可能性が明らかとなった。興味深いことに、このPNPの異常蓄積は、ヒトの培養細胞や酵母などの当該タンパク質ファミリーの欠損によっても惹起される(投稿準備中)。本タンパク質ファミリー欠損によって具現化される代謝異常の要因が、PNPの異常蓄積を介したGCVなどのPLP依存性酵素の阻害である可能性も予見された。また、本研究ではE. coliにピリドキサールレダクターゼという新たなビタミンB6代謝酵素の存在を見出した。本酵素のオーソログは、E. coli以外にもさまざまな生物に存在することが明らかとなった。ピリドキサールレダクターゼは極めて限定的な分布を示すと考えられてきたが、様々な生物においても同酵素が存在し、ビタミンB6代謝に関与する可能性がある。その生理機能や存在意義のさらなる解析、また、ほとんど明らかでない同酵素の構造・機能相関の解析は興味深い研究対象であると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までに当該タンパク質のファミリーの欠損が様々な生物でPNPを蓄積する可能性が明らかとなりつつある。この要因の解明が当該タンパク質ファミリーの分子機能の同定につながると予想されることから、 E. coliのビタミンB6代謝系(合成系およびサルベージ経路)の網羅的変異株の作製を行ってきた。前年度までにこの大部分の作製を終了したのでこの詳細な解析を行う。また、上述の作業仮説―PNPの異常蓄積が、様々な生物の当該タンパク質ファミリー欠損のフェノタイプの要因―の検証を酵母を用いて行う。我々は、当該タンパク質ファミリーが何らかのビタミンB6誘導体の代謝に関与する可能性を予見している。この可能性について、機能性ビタミンB6ミミックを用いて検証していく予定である。
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