2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17KK0188
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
李 恩瑛 千葉大学, 大学院医学研究院, 助教 (60583424)
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Project Period (FY) |
2018 – 2020
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Keywords | 脂肪細胞 / 褐色化 / 組織幹細胞 / 分化 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者らは、以前寒冷暴露時に高効率に褐色化する新規のWAT(inducible BAT, iBAT)を発見し、寒冷暴露により、末梢組織の幹細胞マーカーである遺伝子Xの発現が顕著に誘導されることを見出した。研究代表者は、平成30年8月に渡英し、まず線維芽細胞株を用いたin vitroの分化誘導を行った。令和元年度にはこれらの細胞株を用いた分化実験を重ね、種々の遺伝子発現を定量解析した。次にマウスから単離したBAT, iBAT, WATのin vitro分化実験を行い、iBATの初代培養細胞の褐色化誘導に成功した。解析の結果、細胞株での分化実験では遺伝子Xは成熟白色脂肪細胞にはほとんど発現しないこと。褐色脂肪細胞への分化誘導ステージではむしろ発現抑制されることがわかった。また、各脂肪組織の初代培養細胞のin vivo実験でも同様の傾向を示した。また、脂肪細胞株や脂肪組織からの初代培養前駆脂肪細胞を用いて、ノルエピネフリンで刺激しベージュ化誘導を試みたところ、熱産生に重要なUCP1発現が誘導されるものの遺伝子X発現は誘導されなかった。従って、遺伝子Xは成熟脂肪細胞への分化やベージュ化には必須ではないことが示された。一方、より初期の分化段階での遺伝子Xの役割を解析するため、ヒトiPS細胞を用いて褐色脂肪細胞への分化誘導を行った。面白いことに褐色脂肪細胞への分化とともにUCP1の発現は次第に上昇するものの遺伝子Xの発現は一過性に増加し、後に速やかに減少していた。これらの結果から、細胞株や脂肪組織では培養時には既に幹細胞の特性を失っている可能性が考えられた。そこで、令和2年度にはヒトiPS細胞で遺伝子Xを破壊し、褐色脂肪細胞への分化誘導効率やノルエピネフリンによるUCP1発現誘導を指標に褐色化を検討する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和元年度には線維芽細胞株から成熟褐色細胞や白色脂肪細胞への分化誘導への遺伝子Xの関与、マウスの各種脂肪組織の初代線維芽細胞から高効率に褐色化を誘導し、遺伝子Xの発現誘導を解析した。BATおよびWATからは既報の培養条件で、前駆脂肪細胞のin vitroの分化とベージュ化が誘導でき、遺伝子Xの発現変化を解析できたが、iBATからは前駆脂肪細胞の単離は困難で、実験の最適化は困難であった。しかし、最終的にはiBATの前駆脂肪細胞から成熟細胞への分化・褐色化の誘導に成功した。さらに、ヒトiPS細胞から褐色脂肪細胞への分化誘導する実験系も確立し、分化過程での遺伝子Xの一過性発現誘導も確認できた。また、遺伝子Xの褐色脂肪分化過程における生理的役割を解明する目的で、CRiSPR/Cas9系を用いて遺伝子Xを破壊したiPS細胞も作製することができており、研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
上記の通り、細胞株や各脂肪組織の初代培養細胞の、成熟脂肪細胞への分化やベージュ化誘導実験では、UCP1発現は有意に増加するものの遺伝子X発現は増加しなかった。このことから、遺伝子Xはより未分化な細胞のみに発現している可能性が考えられる。そこで、より初期の分化段階からの発現・機能解析が可能となる、ヒトiPS細胞の褐色脂肪細胞への分化誘導を試みたところ、寒冷曝露時のiBATと同様に一過性の遺伝子X発現が観察された。このことから、ヒトiPSC細胞から褐色脂肪細胞への分化の過程で、遺伝子Xが何らかの役割を果たしている可能性が考えられた。そこで、令和2年度には遺伝子Xを破壊したiPS細胞を用いて褐色脂肪分化における遺伝子Xの生理的役割を解析する。 また、これまではマウス脂肪組織から前駆脂肪細胞のみを単離・培養し、成熟脂肪細胞へ分化していたが、脂肪組織のどの分画の細胞に遺伝子Xが発現されるかを解明することが重要と考えられた。そこで、成熟脂肪細胞、前駆脂肪細胞、間質血管分画(SVF)を分け遺伝子Xを発現する細胞を同定する計画である。また、遺伝子Xを発現する細胞分画の量が寒冷暴露により変化する可能性もあり、これらも解析する予定である。 また、遺伝子Xの生理的役割を解明するためには、遺伝子Xの欠損マウスの解析が不可欠である。そこで、Jaxson研究所の生体バンクに登録された遺伝子X欠損マウスの千葉大学への導入を待っている状況である。本マウスの寒冷暴露の iBATでの遺伝子発現プロファイルや体温変化などを解析し、熱代謝調節での役割を解析する予定である。さらに、このマウスでは遺伝子X遺伝子座にノックインされたGFPを用いて、寒冷暴露時に遺伝子Xを発現する単一細胞をFACSで単離し、RNA-Seq等で細胞特性を解析する。これらの解析により、遺伝子Xの脂肪細胞における生理的役割を解明する計画である。
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Research Products
(6 results)