2017 Fiscal Year Research-status Report
一分子計測による大自由度分子系の反応経路の多様性と遷移状態アンサンブルの直接観測
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17KT0009
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
迫田 憲治 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 准教授 (80346767)
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Project Period (FY) |
2017-07-18 – 2020-03-31
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Keywords | イオントラップ / 大自由度分子系 |
Outline of Annual Research Achievements |
遷移状態の概念を中心に据えた従来の化学反応論では,「化学反応には特定の経路が存在し,その経路に対する反応座標を一義的に定義できる」と考えている.しかしながら,内部自由度の大きな分子系がファネル形状の自由エネルギー曲面をもっている場合,「化学反応には特定の経路が存在する」という従来の考え方は破綻する可能性が高い.今後,単純な化学反応を超えて,大自由度分子系の化学反応を理解し制御するには,従来とは異なる概念が必要になる.従来の化学反応論の枠組では想定されていない,大自由度分子系における反応経路の多様性を直接実証するには,たとえば,タンパク質の折り畳み過程を1分子計測で追跡し,個々のタンパク質の構造変化経路をそれぞれ比較することで,その違いを明らかにすればよい. 今年度は,タンパク質を含む微小液滴を捕捉するための3次元イオントラップを製作した.このイオントラップは,2本の細いワイヤーからなる電極とそれを取り巻く地絡電極から構成されており,エンドキャップトラップと呼んでいる.高電圧電源と高速パルススイッチによって整形した矩形波を細いワイヤー電極に印加することによって,ワイヤー間にトラップ電場を発生させている.このエンドキャップトラップは電極が極めて小さいため,トラップ電場の大きさと光捕集の立体角を大きくできる.我々が従来用いてきた平行平板型イオントラップと比較して,エンドキャップトラップを用いた場合は,光検出の感度が2桁以上向上することが分かった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度はイオン光学シミュレーションを行うことによって,新規に製作する3次元イオントラップ(エンドキャップトラップ)の電場分布を計算し,エンドキャップトラップの構造を変えたときに荷電粒子の捕捉力がどのように変化するか調査した.このシミュレーション結果に基づいて,エンドキャップトラップの最適構造を決定し,実機を製作した.2017年11月にはエンドキャップトラップと印加電圧系を構成する各要素技術の開発を終えた.以降,実機を自作の顕微分光システムに組み込むことによって試験運用を行った.2018年2月には実機が蛍光1分子計測に耐えうる感度に到達したことを確認できており,当初の目標を達成している.よって,本研究課題はおおむね順調に進展していると判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度に開発した顕微分光システムを用いて,色素ラベルしたタンパク質の蛍光寿命測定を行う.まずピコ秒レーザーを用いて微小液滴中の色素ラベルしたタンパク質を励起し,検出される光子の2次相関関数を計算する.この解析によって光子のアンチバンチングが確認されれば,1分子計測が達成できていることになる.次に,ピコ秒レーザーを用いた時間相関単一光子計数法によって,色素ラベルしたタンパク質の蛍光寿命を測定する.このデータをバルク水溶液での実験結果と比較することによって,微小液摘内における自然放出速度と検出光子数の増加に関する定量的なデータを得る.測定に用いるサンプルは,ポリプロリンおよびミオグロビンやシトクロムcなどのヘムタンパク質を予定している.蛍光色素導入キットを用いてこれらを色素ラベルする.なお,タンパク質のなかには気液界面に吸着すると変性するものが存在するが,タンパク質の大きさ(約1 nm)と比べて,WGM蛍光が形成される領域は非常に大きい(約500 nm)のため,表面変性の影響は無視できるほど小さいと予測している.
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Causes of Carryover |
当初の予想では,一分子感度の達成を確認するにはシングルフォトンカウンティング検出器を用いる必要があると考えていた.しかしながら,平成29年度に製作したエンドキャップトラップが予想以上の性能をもっていたため,現有の冷却CCD検出器で一分子感度の達成を確認することができた.そのため,シングルフォトンカウンティング検出器の購入を先延ばししたことが,次年度使用額が生じた主な理由である.一方,平成30年度に行うピコ秒時間分解分光では,シングルフォトンカウンティング検出器を用いる必要があるため,平成30年度に持ち越した助成金を用いて購入する予定である.
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Research Products
(7 results)