2018 Fiscal Year Research-status Report
一分子計測による大自由度分子系の反応経路の多様性と遷移状態アンサンブルの直接観測
Project/Area Number |
17KT0009
|
Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
迫田 憲治 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 准教授 (80346767)
|
Project Period (FY) |
2017-07-18 – 2020-03-31
|
Keywords | 一分子測定 / 微小液滴 |
Outline of Annual Research Achievements |
レーザー顕微鏡を用いた単一分子分光は,個々の分子の振る舞いを直接観察することができる強力な手段である.しかしながら,溶液中の分子はブラウン運動によって短時間のうちに観測領域から逃げ出すため,溶液中で1分子のみを長時間にわたり観察し続けることは一般的に困難である.我々は,溶質分子を1分子だけ含む単一微小液滴を安定に空間捕捉できれば,長時間にわたり溶液環境で一分子計測を行うことができる,という考えに基づき,その実現を目指して研究を進めている.最近,我々は,Schramaらによって原子イオンのレーザー冷却用に開発されたエンドキャップトラップを製作した.シンプルな構造を有するエンドキャップトラップは,対物レンズと液滴の間に障壁物が存在しないので,光捕集の立体角を大きくすることができる.よって,これを用いれば発光スペクトルの高感度観測が可能になる.本研究では,エンドキャップトラップを用いて単一微小液滴を空間捕捉し,励起光強度を十分弱くした実験条件で,同一の単一微小液滴からの発光スペクトルを長時間観測した. 本研究では,蛍光色素であるローダミンB(RhB)を溶存させた単一微小液滴(RhBの濃度は10^-5 M,溶媒はメタノール/グリセリン混合溶媒)を空間捕捉した.ピコ秒パルスレーザーで励起されたRhBからの蛍光を1秒間隔で測定したところ,ある特定の時間領域において,蛍光強度が著しく増大した.各スペクトルから液滴の直径を決定した結果,時間とともに溶媒が蒸発して液滴が小さくなっていることが分かった.また,液滴がある特定の大きさになったとき,励起光が液滴の共振モードと共鳴することで,液滴内部における実効的な励起光強度が増大し,観測される蛍光強度が増加することが分かった.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本課題を実行するために自作したエンドキャップトラップは,以前の装置に比べて約50倍の感度向上を達成している.そのため,空間捕捉した単一微小液滴に溶存した色素分子の蛍光スペクトルを短い時間間隔で連続測定できるようになった.その結果,液滴を構成する溶媒分子の蒸発とそれに伴う液滴径の変化を十分な時間分解能で追跡できるようになった.得られたスペクトルを解析すると,ある特定の液滴径において蛍光強度が著しく増大していることが分かった.これは測定装置の感度向上によって初めて明確に確認できた現象であったが,実験当初はこのような現象が観測されることは予想していなかった.一方,観測される蛍光強度が増大することは,蛍光一分子測定にとっては極めて有利な状況であり,蛍光増強の原因を明確にすることが本課題を遂行する上で重要であると判断し,様々な実験条件を試しながら原因の究明を行った.そのため,当初の実験計画に比べて進捗状況に遅れが生じている.
|
Strategy for Future Research Activity |
ある特定の液滴径で観測される蛍光が増強される原因は,励起光の波長が液滴の外周の長さと一致したとき,励起光が共鳴することによって実効的な励起光強度が増強するためであることが分かった.励起光の共鳴増強の程度は液滴径に依存しており,現状では4マイクロメートル弱の液滴径において約30倍の増強効果を観測している.励起光共鳴による蛍光増強を利用すれば,更なる高感度観測を達成できると予想している.現状では励起光源としてピコ秒パルスレーザーを用いているが,これまでの実験結果を考慮すると,ピコ秒レーザーを高分解能連続発振レーザーに置き換えることによって,更なる増強効果を得ることができるのではないかと考えている.今後は励起光源を連続発振レーザーに置き換えることによって装置の更なる高感度化を達成し,微小液滴に溶存した色素分子の一分子計測を行う予定である.
|
Causes of Carryover |
昨年度は,当初予想していなかった励起光共鳴による蛍光増強効果の観測とその原因究明に時間を要した.そのため,一分子測定のための光学系(HBT干渉計)を構築するための物品を購入しなかったことにより,次年度使用額が生じた.今後の使用計画としては,HBT干渉計を構築するための物品費,励起光源(高分解能連続発振レーザー)の購入,実験試料を調製するために必要な消耗品の購入,成果を公表するための旅費およびオープンアクセス雑誌への投稿料を予定している.
|
Research Products
(4 results)