2020 Fiscal Year Research-status Report
一分子計測による大自由度分子系の反応経路の多様性と遷移状態アンサンブルの直接観測
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17KT0009
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
迫田 憲治 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 准教授 (80346767)
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Project Period (FY) |
2017-07-18 – 2022-03-31
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Keywords | 微小液滴 / 顕微分光 / 励起光共鳴 / Mie理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
直径が数~数十マイクロメートルの微小液滴内で生じた蛍光が液滴界面で全反射を繰り返すと,蛍光は液滴内部に閉じ込められ,光の定在波が形成される.つまり,微小液滴は極めて小さな光共振器と見なすことができる.本研究では,微小液滴にレーザー蛍光顕微分光を適用することによって,微小液滴に溶存したタンパク質の特異な振る舞いを解明することを目指して研究を行った. タンパク質を蛍光顕微分光で分析する場合,大きな蛍光量子収率をもつ色素分子でタンパク質を修飾することが必要である.そこで本研究では,色素分子の1つであるナイルレッドを微小液滴に溶存し,これにレーザー蛍光顕微分光を適用することによって,微小液滴内における色素分子の溶存状態を調査した. 外部から照射されたレーザー(励起光)が液滴内部に閉じ込められると,液滴内部の励起光強度が増大すること(励起光共鳴)を反映して,液滴の直径が3.28マイクロメートルと3.22マイクロメートル付近で蛍光増強が観測された.これらの共鳴は,偏光方向が異なるTM23とTE23に帰属した.モードナンバーが22から24における蛍光面積強度比をそれぞれ求め,その平均を算出すると2.35であった.また,蛍光面積強度比の平均値から,液滴の界面近傍におけるナイルレッドの配向角を計算したところ,33.1度であった.一方,電荷をもっていない液滴の場合,その配向角は約90度である.つまり,今回の結果は,液滴が電荷をもつと,界面近傍における分子の配向方向が大きく変化することを示している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本課題では,エレクロスプレー法で生成した微小液滴を安定に空間捕捉するためのイオントラップを独自に製作し,これをレーザー顕微分光装置に組み込んで使用している.今年度は,タンパク質を標識する色素分子を液滴に溶存させた系を対象に実験を行うことによって,色素分子が液滴中で配向していることを見出すなどの成果を挙げたが,単一の液滴を更に長時間観測するには,液滴からの溶媒の蒸発を抑制することが必須である.現在,溶媒の蒸発を抑制するための断熱チャンバーの製作を行っているが,機械工作に想定以上の時間を要したため,進捗状況に遅れが生じている.
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Strategy for Future Research Activity |
液滴からの溶媒の蒸発を抑制するための断熱チャンバーを自作のレーザー顕微分光装置に組み込み,想定した性能をもっているかを確かめる試験運用を行う.所定の性能に達したことを確認したのち,色素標識したタンパク質を溶存した微小液滴のレーザー顕微分光実験を行う.具体的には,励起光共鳴を利用したタンパク質の空間配向効果の検証,時間相関単一光子計数法を利用した色素分子の蛍光寿命測定,とくにタンパク質が折り畳み状態と変性状態にあるときの蛍光寿命の変化を観測する予定である.これらのデータに基づいて,タンパク質の構造転移に伴う遷移状態構造の考察を行う.
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Causes of Carryover |
微小液滴からの溶媒の蒸発を制御するための断熱チャンバーの製作に想定以上の時間を要したため,研究の進捗に遅れが発生し,次年度使用額が生じた.来年度の助成金使用計画は,1.新規装置開発,2.実験に必要な試薬類の購入,3.学会で成果を発表するための旅費,4.論文投稿のための費用,以上の4項目を予定している.
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Research Products
(7 results)