2017 Fiscal Year Research-status Report
線虫近縁種間のゲノム比較およびゲノム改変による遺伝子回路リワイヤリング過程の解明
Project/Area Number |
17KT0013
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
杉本 亜砂子 東北大学, 生命科学研究科, 教授 (80281715)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
菊地 泰生 宮崎大学, 医学部, 准教授 (20353659)
|
Project Period (FY) |
2017-07-18 – 2020-03-31
|
Keywords | C. elegans / 遺伝子 / 遺伝子回路 / rewiring |
Outline of Annual Research Achievements |
1. 細胞極性確立回路のリワイヤリング: C. elegansとP. pacificusの初期胚における細胞極性確立および非対称分裂の比較解析を行った。微小管、中心体、アクチン繊維を蛍光タンパク質で可視化しライブイメージング解析を行った結果、この2種の線虫の1細胞期の細胞動態は顕著に異なることが明らかになった。紡錘体微小管は、P. pacificusではC. elegansよりも分裂中期までは短いが、分裂後期以降に安定化された。また、アクトミオシンの収縮に依存すると考えられている細胞膜のラッフリングはP. pacificusの方が顕著に激しいことが示された。さらに、第一分裂における紡錘体の後極側への移動の際に、P. pacificusではアクチン集積点が後極に一過的に形成され、その点に紡錘体極が引き寄せられることを発見した。これはC. elegansとはまったく異なるしくみで紡錘体ポジショニングが行われていることを示唆する。
2. 生殖顆粒形成回路のリワイヤリング:C. elegansの生殖顆粒形成にはPGLタンパク質(PGL-1およびPGL-3)が必須であり、常に生殖顆粒に局在する。C. sp.34はPGLタンパク質が一つ存在し、抗体染色によりC. elegansと同様の局在を示すことが明らかになった。一方、P. pacificusにはPGLタンパク質は存在しないが、多くの生物種に保存されている生殖顆粒構成因子VASAホモログ(GLH)タンパク質は存在し、生殖顆粒状の局在を示すことがGFP標識タンパク質のライブイメージング解析から明らかになった。この結果は、生殖顆粒の形成メカニズムは近縁種であっても多様であり、進化速度が早いプロセスであると推測される。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1. 細胞極性確立回路のリワイヤリング: C. sp.34におけるRNAiによる遺伝子機能破壊法、P. pacifiucsにおけるBombardment法による遺伝子導入法を確立し、遺伝子経路の種間比較を実験的に行うことが可能となった。C. sp.34に関しては、遺伝子導入に成功しているがその頻度が低いため、実験手法の改良を進めている。 P. pacificusにおいて、微小管、中心体、アクチンの蛍光タンパク質標識株を作製し、初期胚の細胞動態についてC. elegansとの比較解析を行い、とくにアクチン動態に顕著な違いがあることを明らかにした。C. elegansとP. pacificusでは初期胚の細胞極性確立および紡錘体ポジショニングのメカニズムが顕著に異なることが明らかになったため、さらに関連遺伝子の局在および機能解析を進めている。
2. 生殖顆粒形成回路のリワイヤリング:PGLタンパク質は進化速度が早く、Caenorhabditis属線虫にしか存在しないが、C. elegansのPGL-3に対する抗体がC. sp.34のPGL-1ホモログを認識することを見出した。この抗体を用いてC. sp.34のPGL-1の細胞内局在を調べた結果、C. elegansよりもサイズの若干小さいが、生殖顆粒状の構造をとっていることが明らかになった。一方、P. pacificusにはPGLタンパク質は存在しないため、多くの生物種に保存されている生殖顆粒構成因子VASAホモログ(GLH)タンパク質のGFP標識株をBombardment法によって作製した。その結果、P. pacifics GLHタンパク質は生殖顆粒状の局在を示すことが明らかになった。すなわち、P. pacificusにおいてはPGLタンパク質非依存的に生殖顆粒が形成されていることが示唆された。
|
Strategy for Future Research Activity |
1. 細胞極性確立回路のリワイヤリング: これまでの解析により、C. elegansとP. pacificusの細胞極性確立および紡錘体ポジショニングのメカニズムが異なることが示唆されたので、引き続き、比較解析を行う。とくに、C. elegansの細胞極性確立に必須なPAR-2タンパク質はP. pacificusには存在しないため、それ以外の細胞極性タンパク質の細胞内局在および機能に焦点を当てて解析をすすめる。本来はPAR-2を持たないP. pacificusに、C. elegans由来PAR-2を導入することにより、遺伝子回路の人為的リワイヤリングを試みる。
2. 生殖顆粒形成回路のリワイヤリング:生殖顆粒の形成機構について引き続き解析を進める。PGLタンパク質を持たないP. pacificusにおいて、生殖顆粒がどのようなメカニズムで形成されているかを明らかにする。C. eleganのPGLタンパク質をP. pacificusで発現させ、生殖顆粒形成過程への影響を調べる。これらの解析により、PGLの獲得が生殖顆粒形成回路のリワイヤリングに与えた影響を明らかにする。
|
Causes of Carryover |
29年度に購入を予定していたシリコーン浸対物レンズは、平成30年度に発注を行うこととした。また、雇用していた研究員が助教として採用されたため、人件費が予定より減額となった。減額となった人件費に相当する部分については、研究の進捗状況に合わせ、物品費として使用する予定である。
|