2017 Fiscal Year Research-status Report
Synthetic biology of self-replicating systems: Growth and evolution far from equilibrium
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17KT0025
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
前多 裕介 九州大学, 理学研究院, 准教授 (30557210)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
亀井 謙一郎 京都大学, 高等研究院, 特定拠点准教授 (00588262)
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Project Period (FY) |
2017-07-18 – 2019-03-31
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Keywords | 生命の起源 / 自己複製 / 非平衡統計力学 / 化学進化 |
Outline of Annual Research Achievements |
DNAは遺伝情報を蓄積する分子であり、自己複製する生命の根幹である。DNAは核酸分子が連なる高分子であり、重合反応によって長大なDNAへと成長すると考えられる。単純な分子から触媒(酵素)や高エネルギー反応で複雑なDNAが段階的に合成されて行ったとする化学進化説が有力な仮説であるが、温度・濃度一様の平衡系では、分子の重合反応やDNAとDNA(あるいはRNAとRNA)が重合する酵素反応(ライゲーション)がランダムに起こる。すると、幾重も反応が起こった長いDNA鎖が再び反応する確率は指数関数的に減衰し、鋳型となるDNAやRNAの出現が困難となる。これは、遺伝情報を保持する鋳型DNAが平衡系では極めて低い確率でしか現れないことを意味し、化学進化の濃度問題とよばれる未解決課題である。 本研究では、物理化学的視点から化学進化の濃度問題を解決することを目標に、DNA成長を促す重合反応と鋳型依存的な複製反応を示す反応系を再構成する。一方で、自然界はエネルギーや物質の流入出が繰り返す非平衡系であり、とりわけ温度勾配は海底熱水噴出口にみられる。そこで熱水孔を模したin vitro熱水系を実験室内で構築し、極限環境下での化学反応とそのダイナミクスを調べる。極限環境にさらされた反応系における自己複製系の出現を追体験し、DNAの配列情報や長さの統計的性質を実験・理論的に解析することで、濃度問題を解決する物理的シナリオを提示する。 上述の研究背景のもと以下の4つの研究項目を実施する。①耐熱的ライゲーションが進行するin vitro熱水系の構築、②DNA重合反応の濃度・長さ・配列を同時計測する手法の確立、③非ランダムなDNA重合反応と選択的な遺伝情報成長の解析、④鋳型依存的重合よる自己複製系の構築とそのメカニズムの解明
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は、①耐熱的ライゲーションが進行するin vitro熱水系の構築、②DNA重合反応の濃度・長さ・配列を同時計測する手法の確立、③非ランダムなDNA重合反応と選択的な遺伝情報成長の解析をおこなった。課題①においては、熱水噴出口を模した大きな温度勾配を持つ極限環境を実験室内に構築するのが目的である。赤外線レーザーを用いた局所温度勾配を形成し、熱対流・熱泳動を誘起する反応系を構築した。レーザーをビームスプリッターで分割し、複数個のサンプルを同時に計測できる仕様となっている。課題②においては、定量PCR(qPCR)を基礎としながらも、検出するDNAの濃度と長さを同時に検出することができる手法を開発することに成功した。この手法を用いて、温度勾配がない平衡系での酵素反応では重合したDNA断片の濃度と長さの関係は指数関数的であることを明らかにした。この結果は、平衡系では酵素反応がランダムに進行していることを意味している。次に課題③において、非ランダムなDNA重合反応が起こる条件を探索した。その結果、DNA断片の濃度と長さの関係が指数分布から外れる反応条件を見出した。ある性質をもつ分子が反応系に共存したときにのみ、温度勾配下の極限環境で非ランダムな酵素反応が出現することが明らかとなった。共存分子を考慮したDNA重合反応の反応速度論的モデルをもとに、実験結果を説明する理論的解析と数値計算を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
第1に、課題③の非ランダムな反応と遺伝情報配列の相関解析を行う。非ランダムな重合反応によって、遺伝子配列にあらわれる変化を検討する。ランダムに連結が起こっていく場合は、誕生する遺伝子配列も無秩序で特別な規則性は現れないと考えられる。しかし、我々が見出した反応条件は選択DNA重合反応になっており、溶液内に含まれるDNAサイズの不均一性があると特定の配列が優先的に結合されると期待できる。この過程を課題②で開発したqPCR法や、多色の蛍光イメージング法と組み合わせて用いることで、DNA塩基配列レベルで非ランダムネスが出現するかを検証する。さらに、得られた実験結果を説明する理論的モデルの構築を進める。具体的には、分子間の引力相互作用と確率的化学反応を加味した重合反応の統計力学モデルを構築し、DNA鎖の選択的重合反応と塩基配列に現れる秩序性の関連を明らかにする。 第2に、課題④にある極限環境で動作する自己複製系の構築と解析を行う。温度勾配下の輸送現象とライゲーションで合成されたDNAを鋳型とし、鋳型依存的ライゲーションによるDNA複製系を構築する。選択的DNA重合を行いながら高温-低温の間で温度サイクルを与えることが可能な装置を新たに設置する。選択的DNA重合で得た長大なDNAは高温で1本鎖にほどかれ、低温にさしかかると断片が結合し鋳型鎖上で配列依存的に連結反応を起こす。これが繰り返されて鋳型DNAの自己複製となることを示す。以上の極限環境とシンプルな反応を組み合わせることで、DNA自己複製系の成長過程を物理化学的原理から明らかにする。
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Causes of Carryover |
長い納期を有する消耗品があり、本年度内の購入ではなく翌年度の購入にあてることが妥当と判断した。また、発生した残額は消耗品購入のために速やかに翌年度に発注を行う。
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Research Products
(8 results)