2018 Fiscal Year Research-status Report
社会的境界研究の構築と移民トランスナショナリズムへの応用
Project/Area Number |
17KT0030
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
樽本 英樹 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (50271705)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
森 千香子 一橋大学, 大学院社会学研究科, 准教授 (10410755)
人見 泰弘 名古屋学院大学, 国際文化学部, 准教授 (10584352)
南川 文里 立命館大学, 国際関係学部, 教授 (60398427)
秦泉寺 友紀 和洋女子大学, 人文学部, 准教授 (60512192)
佐藤 成基 法政大学, 社会学部, 教授 (90292466)
本田 量久 東海大学, 観光学部, 准教授 (90409540)
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Project Period (FY) |
2017-07-18 – 2020-03-31
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Keywords | 社会的境界 / 国際移民 / エスニック・マイノリティ / 国民国家 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、昨年度の研究会で明らかになった境界研究の理論的側面を強化する作業をまず行った。論点は、いかにすれば境界研究は領域的-地理的境界だけでなく社会的境界をも探究できるのであろうか、いかにすれば境界研究は領域的-地理的境界と社会的境界を分別できるのであろうかという問いに答えることである。ひとつの方向性として、すでに研究代表者は国家による移民市民権政策を把握するためHammar=Koido=Tarumotoモデル (HKTモデル) を構築していた。このHKTモデルおよび他の既存研究を検討しつつ研究分担者とも議論を重ね、社会的境界 (social border) のつぎのような概念化に到達した。 「社会的境界 (social border) とは、人々のある集合と別の集合を区別する規則、規範、共有知識のことであり、集団間や階層間などを区切る機能を持ち、しばしば権力関係、社会的・経済的格差、差別、排除を伴う。」 さらに、社会的境界が立ち現れる問題として二種類が取り出されると結論づけた。1つめは移民主導的な問題系で、典型例は移民トランスナショナリズムである。もう1つは社会主導的問題系であり、文化的人種主義やエスニック排外主義など広範な問題がここに含められる。 以上のような理論的考察に基づき、各国の事例が検討された。取り上げられたのは、フランスの包括的なmigration把握と境界再編、アメリカ合衆国における生得的市民権、日本のインバウンド観光における越境的ネットワーク、日本に滞在する難民の越境的移動と適応、ドイツにおける国民国家の境界をめぐる言説の対立、在外イタリア人から見た「イタリア」の境界である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度に課題となった理論的精緻化がある程度なされたことで、社会的境界論が有効になる射程がかなり明確となったため、おおむね順調に進展していると理解できる。ただし、個々の事例と理論との接続にはいまだ一貫していない部分があり、今後の課題となっている。さらに、いくつかの国では社会的境界論にとってきわめて重要な事例がいまだ継続して生起しており、本研究においてどこまで論じられるか、また論じるべきかを見極めなければならない。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究として以下のような課題が残されている。 第1に、理論的な観点として社会的境界概念が捉えられる社会現象が明確になって一方、同現象の生起・維持・消失の理論的メカニズムについてはいまだ明らかにされていない。このような因果的理論モデルの構築をしなければならない。 第2に、社会的境界にあてはまる各国の事例の中でいくつかの現象が現在継続して生起している。たとえばアメリカ合衆国におけるトランプ大統領のメキシコ国境の「壁」の建設の試み、英国のEU離脱、イタリアにおける極右ポピュリズム連立政権の政権運営など、社会的境界論的に見てきわめて重要な現象を追っていく作業を行わなければならない。 第3に、本研究全体をまとめる作業をしなければならない。基本的な方向性は各国比較の視点を取り入れつつ、移民・外国人に関する社会的境界を盛り込んだ編著を出版することである。そこで、各章の執筆を進めるとともに、理論的なまとめを進めていきたい。
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Causes of Carryover |
社会的境界研究の理論的側面を精緻化する必要性が生じたため、文献などを用いた理論研究を優先した。その結果、海外などを対象とした実証研究が次年度送りになったためである。
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