2020 Fiscal Year Research-status Report
占領の法政治学~パレスチナと西サハラにおける法の政治的機能
Project/Area Number |
17KT0089
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
松野 明久 大阪大学, 国際公共政策研究科, 教授 (90165845)
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Project Period (FY) |
2017-07-18 – 2022-03-31
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Keywords | パレスチナ / 西サハラ / 占領 / 法制度 / トランプ外交 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題は本来令和元年度に終了する予定であったが、令和2年度に延長申請し承認を得ていた。その時点での残された活動はフィールド調査であった。しかし、令和2年度になると新型コロナ感染拡大の影響からフィールド調査ができなくなり、再度令和3年度への延長申請を行い、受理されたところである。そのため令和2年度は以下のようなオンラインで可能な研究活動を行った。 まず、2021年1月に研究提携先のパレスチナのアル・クドゥス大学法学部が主催するウェビナーに参加した。話者は国連パレスチナ占領地の人権に関する特別報告者で、国際司法裁判所に占領の合法性に関する勧告的意見を求める件をテーマとしていた。また、市民グループによる西サハラに関する3つのオンラインセミナーの企画に参加し、司会などを務めた。他科研プロジェクトとの共催も行われた。1つめ(2020年7月)はテーマを「西サハラ・抵抗のかたち」とし、文化的な抵抗の様態を特集し、2つめ(2020年11月)は「グデイム・イジーク抗議キャンプを忘れない」と題して政治囚の現状に焦点をあてた。3つめ(2021年3月)は「西サハラは誰のもの?トランプ外交の取引を超えて」と題して、著名な中東研究者の講演を行った。 2020年は西サハラの現地での停戦破棄に至る軍事的危機が発生し、米トランプ政権が、モロッコがイスラエルと関係正常化するのと引き替えにモロッコの西サハラに対する主権を承認するという「取引外交」を行ったため、それらの分析を行い、その結果を月刊誌(『世界』2021年3月号)に「西サハラの主権問題ートランプ外交の負の遺産」と題する解説記事として発表した。 最後に、非自治地域たる西サハラの資源問題(リン鉱石や海産資源)の利用に関して、天然資源に対する恒久的主権の観点及びビジネスと人権に関する視点からデータを蓄積している欧州の団体からの資料収集を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本課題は本来令和元年度に終了予定であったが、学内行政多忙(研究科長業務)のため海外フィールド調査の時間が取れないことを理由に令和2年度に延長申請を行い承認されていた。その時点では新型コロナは予想していなかった。しかし、その後新型コロナ感染が拡大し、令和2年度後半になっても収束せず、海外フィールド調査の可能性はなくなった。それで2度目の延長申請を行い受理されたところである。他課題は海外フィールド調査を必須のものとするため、現時点では進捗状況をやや遅れているとせざるをえない。 西サハラについてはモロッコを含む現地訪問をすでに終え、法制度関連の基本的事項についても資料を収集し、関係者の聞き取りも少し行った。パレスチナに関しては状況がきわめて複雑で、法制度的な側面に限っても問題が多岐にわたる。また、法律と運用の両方をみる必要があり、その点より多くの時間をかける必要があると考える。そのため2度目の訪問を計画している。とくに、本課題がめざす紛争状況の可視化のために、東エルサレムのパレスチナ人商人のビジネスに関連する制度的枠組を調べたいと考えているが、研究がほとんどまったくと言っていいほどなく、現地訪問を行うしか方法がない。一般的な人権侵害については各種報告が存在するが、経済活動の権利に関しては大きな欠落があると言わざるをえない。 この間、パレスチナについては「ナクバのメモリサイドー風景と記憶の政治学」(『現代思想』2018年4月)、西サハラについては「西サハラ独立問題の歴史と展望」(『世界』2019年9月)、「西サハラの主権問題ートランプ外交の負の遺産」(『世界』2021年3月)を書いたが、学術的な研究論文としてまとめる必要があると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度中にイスラエル及びパレスチナの訪問ができるかどうかは現時点でははっきりしたことはいえない。イスラエル自体はワクチン接種が進み、ある程度訪問客への開放に向かうと推測される。一方、日本におけるワクチン接種は秋から冬までずれこむと予想される。したがって、秋から冬にかけて現地訪問ができることを期待している。ただ、主たる訪問地の東エルサレムの感染拡大状況及びワクチン接種状況は現時点では不明であり、今後も推移を見て判断して行きたい。 現状から考えると、令和3年度中も少なくとも前半は遠隔で研究を行うしかない。本課題においては、占領下の法制度のインパクトを研究することとしており、提携先のパレスチナ(エルサレム)のアル・クドゥス大学法学部とは引き続き関係を続けていきたい。東エルサレムで進行するユダヤ人入植運動がもたらす土地家屋所有権の問題を取り上げたいと考えている。というのも、米トランプ政権による在イスラエル米大使館のエルサレムへの移転によって、東エルサレムにおけるユダヤ人とパレスチナ人の現実のパワーバランスが一層ユダヤ人側有利にシフトしたからである。これがユダヤ人の入植運動を勢いづかせていることは否めない。また、見えない紛争の可視化という観点から、東エルサレムのパレスチナ人商人のビジネスの現状を見てみたいと考えており、前回の訪問でパレスチナ人のエルサレム商工会議所を訪問したが、引き続き連絡をとって情報を提供していただくしかないと考えている。 西サハラにおいても、占領下における法制度の政治的機能を捉える上で非常に重要な側面が経済であることを強調する方向で研究を進める。占領地西サハラの経済のモロッコ経済への統合、むしろそこにおける強まる資源収奪の深化は、弾圧事件などと違って、見えにくい。見えにくいが構造的に形成されていて紛争全体に大きなインパクトを及ぼしている点を明らかにしたい。
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Causes of Carryover |
本課題は当初令和元年度に終了する予定であったが、大学行政多忙(研究科長職にあったため)及び新型コロナ感染拡大を理由に2度の延長申請を行い承認されたものである。次年度使用額はもともと海外フィールド調査にあてる計画であったため、コロナ渦にあって使用できなかった。また、その間に行ったオンラインによるさまざまな企画は費用がかからなかったため、令和2年度中は資金を使用していない。令和3年度中に海外フィールド調査ができることを期待して、全額そのままにしてある。 今年度はワクチン接種を受けた後(夏から秋にかけてと予想している)、冬にイスラエル及びパレスチナへのフィールド調査を計画している。次年度使用額は大半をそれに充当することになると考えている。調査は12月から1月、または2月から3月にかけて、10日程度、東エルサレムを訪問し、提携先の大学及び商工会議所など関係訪問を訪ねることを計画している。旅費の他、資料購入費及び通訳謝金を支出する。一方、西サハラに関しては、年度末にかけて対面またはオンラインでの法的な問題に関するシンポジウムを考えており、その開催費及び招へい者の旅費・謝金を支出する計画である。
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