2017 Fiscal Year Research-status Report
Development of Anti-Bullying and Peace Education Program
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17KT0091
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
栗原 慎二 広島大学, 教育学研究科, 教授 (80363000)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
石井 眞治 比治山大学, 現代文化学部, 教授 (60112158)
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Project Period (FY) |
2017-07-18 – 2020-03-31
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Keywords | 絶対的貧困 / 問題焦点型対処方略 / 情動焦点型対処方略 / 社会的正義 / キャリア教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は,1)建設的葛藤解決モデルの構築,2)多次元プログラム評価指標の開発,3)国外プログラムの調査の3つの目標を立てていた。29年度は,まず暴力や貧困が問題となっているフィリピンと,当初から予定していたシンガポールに加え,取組の進む香港を訪問し,視察調査を行った。 フィリピンでは貧困地域に建つ学校とストリートチルドレンの保護施設を訪問し,貧困,暴力,薬物等の問題が横たわっている現状を目の当たりにした。平和の構築はこうした問題の解決と直結することが理解できた。また,香港ではこうした問題の解決の方向性としてキャリア教育の可能性を模索している現状を知ることができた。相対的貧困が主要な問題として語られる日本に対して,経済格差の大きい香港や,絶対的貧困の問題が社会全体を覆っているフィリピンを視察できたことは大きな意味があった。 次に,建設的葛藤解決モデルについてであるが,社会的矛盾が大きく,安全が保証されないフィリピン(163カ国中138位,日本は10位)では,日本と葛藤解決の方向性が大きく異なることが印象的であった。具体的には,大渕(2003)によれば,建設的葛藤解決は,事実は何かと言うことを明らかにし,その上で協調方略をとることによって成立する。日本の学校においてはこうした方向性で間違いはおおむねないように思われるが,そもそも対立する両者の間に力の差があり,社会的正義も十分には期待できない社会においては,こうした問題焦点型対処方略よりも情動焦点型対処方略が選択される場面が少なくなかった。 こうしたことを勘案すると,実践プログラムはVarnavaの述べる地域連携・価値・組織・環境・カリキュラム・トレーニングの6領域をより具体的に精査して,項目を検討する必要があることが分かった。ただし,29年度はその具体的作業には至らなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成29年度は,1)建設的葛藤解決モデルの構築,2)多次元プログラム評価指標の開発,3)国外プログラムの調査の3つの目標を立てていた。実際の手順としては,3)の視察調査に基づいて,1)建設的葛藤解決モデルを構築し,2)の評価指標開発という流れを考えていた。また,当初,想定していたモデルは,①事実は何かを明らかにし,②その上で協調方略をとることによって成立するモデルを考えていた。 ところが,フィリピンの貧困地域とストリートチルドレンの実態を視察したところ,貧困や暴力が蔓延する状況の中では,建設的葛藤解決の前提が必ずしも成立せず,その結果,建設的協調方略が必ずしも通用しない現実があることが分かった。つまり,建設的葛藤解決モデルは,対等な人間関係を前提とした協調的な問題焦点型対処方略ということができるが,犯罪や暴力が日常の生活にある状況下では対等な人間関係が必ずしも保証されないこと,問題が大きすぎたり,解決が困難な場合には問題焦点型対処方略は通用しにくい。そのため,実際に取られていた方略の比重は,豊かなファミリ-サポートやピアサポートを中心とした情動焦点型対処方略にあった。 こうした理由により,当初想定していたモデルをそのまま採用することは,貧困や暴力の影響力の大きい現実に対して有効性が高いとは言えず,モデルの再考が必要と考えた。 このことが進捗の遅れの要因となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
30年度の研究予定は,1)対立・葛藤関連要因の測定尺度の開発と対立・葛藤メカニズムの検討,2)プログラム実践の包括的評価尺度の開発,3)国外プログラムの調査,となっている。 基本的にはこの予定どおり進めるが,前項で述べたとおり,モデルの修正を検討する必要があるため,2)評価尺度の開発については,やや遅れが生じるものと思われる。3)の現地調査については予定どおり実施する。 まず,視察については,29年度に訪問したフィリピンを再訪し,調査を継続する予定である。また,当初予定していたフィンランド,オーストラリア,ハワイの視察候補地のうち先住民の問題があるハワイを選択した。理由としては,障害等に関わる支援としてのUDLなどの先進的取組があること,ネイティブハワイアンの平和に関する取組などから示唆が得られるものと考えたからである。 こうした視察調査を元に,1)対立・葛藤関連要因の測定尺度の開発と対立・葛藤メカニズムの検討を行う。想定されるモデルは,建設的葛藤解決モデルをベースにしながらも,貧困や暴力の問題を念頭に置き,モデルを探索するような形で検討を行う。そうした場合,モデルが確定するまで評価指標は開発が進めにくいので,今年度は特にこのモデルの開発に焦点を置きたい。 また,現在,石巻市に関係している。東日本大震災で困難な経済状況にあること,解決困難な問題が依然として存在することなどは,フィリピンと通じる点も少なくない。こうした状況に海外から学んだ知見を生かす視点を持ちながら研究を進める。
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Causes of Carryover |
当初の予定では,海外調査は一カ所を予定していたが,研究計画の若干の修正により,フィリピンとハワイの二カ所を訪問することになる。そのため,旅費の比重が大きくなる。また,特にフィリピン調査に当たっては,現地での調査協力者が必要でその分が計算されている。
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