2017 Fiscal Year Research-status Report
生物発光における脱CO2酵素反応の遷移状態構造とその制御の計算物質的科学研究
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17KT0094
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
樋山 みやび 群馬大学, 大学院理工学府, 准教授 (90399311)
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Project Period (FY) |
2017-07-18 – 2020-03-31
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Keywords | ルシフェリンールシフェラーゼ反応 / 反応経路 / ポテンシャルプロファイル / 振動解析 / 自由エネルギー |
Outline of Annual Research Achievements |
ホタル生物発光は、あらわに外部からエネルギーが供給されることなく、化学反応により発光する興味深い現象である。この反応は「ルシフェリンールシフェラーゼ反応」と呼ばれ、ルシフェラーゼタンパク質酵素中で基質であるルシフェリンとアデノシン三リン酸・酸素・金属イオンから発光体であるオキシルシフェリンが生成し、発光を起こす反応である。ルシフェリンールシフェラーゼ反応ダイナミックスを調べるためには、反応に関与する分子の構造をそれぞれ知る必要がある。これまでの理論研究から、ルシフェリンとオキシルシフェリンの水溶液中で最も安定な構造はpHにより異なることが明らかになっている。 平成29年度の目的は、pHに対して異なる反応経路を解明することにある。反応経路についての過去の研究では中間体とオキシルシフェリンについてそれぞれ一つの分子を仮定している。しかし、これまでの研究から、オキシルシフェリンはpHによって構造が異なることが明らかになったため中間体もpHごとに異なると予想される。平成29年度は反応経路に関与する分子の構造を明らかにするため、ルシフェリン・ルシフェリルAMP中間体・ジオキセタン中間体・オキシルシフェリンの水溶液中での電子状態を計算した。振動解析を行い、独自に開発した自由エネルギー補正法をもちいて相対的な自由エネルギーを見積もることで、タンパク質内の環境に相当するpH7-9領域での反応経路を求めた。その結果、水溶液中でのATP中間体構造は、タンパク質中での構造とかなり異なることがわかった。また、反応経路のポテンシャルエネルギープロファイルから、ATP中間体構造はpH > 8でプロトン脱離した構造をとり、一方、ジオキセタノン中間体はpHによらずプロトン脱離した構造をとるため、タンパク質内の環境に相当するpH領域では、僅かなpHの違いで反応経路が異なることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予定していた「pHに対して異なる反応経路を解明する」という目的を達成することができたため。その結果、この研究課題で着目するジオキセタノン中間体の基底状態における安定構造を求めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
オキシルシフェリン励起状態の酵素の影響および理論計算レベルを検証するため、実験情報のあるゲンジボタルルシフェラーゼとその変異体の違いに着目し結晶構造のルシフェラーゼを点電荷としてあつかう。時間依存(TD)DFTを行うことにより活性中心にあるケト型オキシルシフェリンアニオンの励起状態の構造を決定する。
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Causes of Carryover |
平成29年度に行った研究より、古典分子動力学計算よりも励起状態計算に特化した計算資源が必要であることが明らかになった。また平成29年10月に東京大学物性研究所から群馬大学大学院理工学府へ所属が変更になり、新しい研究環境に対応して計算機の仕様を検討し直す必要があったため、研究費を繰り越して対応することにした。 高精度励起状態計算に対応した構造計算用の計算機の購入、研究成果発表・情報収集・研究打ち合わせの出張費、論文投稿費に次年度の本研究費を使う。
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Research Products
(6 results)