2018 Fiscal Year Research-status Report
生物発光における脱CO2酵素反応の遷移状態構造とその制御の計算物質的科学研究
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17KT0094
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
樋山 みやび 群馬大学, 大学院理工学府, 准教授 (90399311)
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Project Period (FY) |
2017-07-18 – 2020-03-31
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Keywords | ゲンジボタルルシフェラーゼ / 変異体 / 古典分子動力学計算 / 時間依存密度汎関数法 / ONIOM計算 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は、オキシルシフェリン励起状態の酵素の影響および理論計算レベルを検証するため、実験情報のあるゲンジボタルルシフェラーゼとその変異体の違いに着目し、ルシフェラーゼを点電荷としてあつかう計算を実施した。タンパク質の構造は、タンパク質データバンクに登録されているゲンジボタルルシフェラーゼの結晶構造を参考にし、野生型のゲンジボタルルシフェラーゼの配列に変更した。さらに、257番目のチロシンをアルギニンに変えて変異体の構造を作成した。また、オキシルシフェリンを含む水溶液中のタンパク質構造を決定するために、タンパク質表面から30オングストロームまでの水分子を加えた古典分子動力学計算を行った。その結果、5ナノ秒で平衡に達することがわかった。また、タンパク質の活性点付近に存在するオキシルシフェリンの分子構造の情報を得ることができた。 次に、この古典分子動力学計算から得られる構造を初期配置とし、時間依存密度汎関数法(TDDFT)計算によるオキシルシフェリン励起状態の構造最適化を行った。この計算では水分子およびタンパク質を点電荷として近似した。水分子数に対する収束性から、オキシルシフェリンの中心より半径50オングストロームまでの水分子を入れたモデルで十分であることを確認した。その結果、野生型と変異体における発光エネルギーをそれぞれ得ることができた。 しかしながら、この計算方法では構造最適化の計算中に、オキシルシフェリンの酸素原子がタンパク質の水素原子の点電荷近くに偏ってしまうことが多くあることが判明した。そこで、オキシルシフェリン励起状態の構造最適化計算に、タンパク質と周囲の水分子を分子力学法で扱い、オキシルシフェリンにTDDFTを用いるONIOM計算を実施した。その結果、構造最適化の際に、オキシルシフェリンの酸素原子がタンパク質の水素原子の点電荷近くに偏る、という問題は回避できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
古典分子動力学計算により野生型のゲンジボタルルシフェラーゼおよび変異体中のオキシルシフェリンの分子構造を得ることができた。また、発光エネルギーの計算については、水分子およびタンパク質をONIOM計算に取り入れる方法の方が良いことがわかった。さらに、発光エネルギーの計算には、TDDFTだけでなく運動方程式結合クラスター法(EOM-CCSD)計算を試み、どちらも変異体の発光エネルギーの方が小さくなることを確認した。これらの結果から、予定していた「オキシルシフェリン励起状態の酵素の影響および理論計算レベルの検証」という目的を達成することができたと言える。構造最適化により得られたオキシルシフェリンの分子構造は、タンパク質の影響を反映して振動した構造となっていることがわかったため、複数の構造を考慮した発光スペクトルを得る必要がある。次年度はこの問題点も含めて、計算手法を変えて発光スペクトルの計算を実施する。
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Strategy for Future Research Activity |
・発光スペクトルの計算について、複数の構造における振動子強度から発光スペクトルを求める方法に切り替える。この方法は、すでに水溶液中の吸収エネルギーの計算に用いられている。また、その後蛍光スペクトルの計算にも用いられ、発光エネルギー計算にも有効な方法であることが示されている。この方法により理論発光スペクトルを得て、発光エネルギーを決定する。 ・オキシルシフェリンの周囲にあるアミノ酸残基を調べ、発光反応経路に影響を与える可能性のあるアミノ酸残基を予測する。
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Causes of Carryover |
【理由】2017年度に反応経路に関与する化学種を解明し、その結果に基づき2018年度はタンパク質中の発光スペクトル計算を行うとともに学会において成果を発表する予定であった。2018年度に実施した研究から、発光スペクトル予測には複数の構造を取り入れた計算および活性中心の構造解析が必要であることが明らかになったので、計画を変更し、複数のオキシルシフェリン構造を考慮した計算を行うこととしたため、未使用額が生じた。このため、複数のオキシルシフェリン構造を考慮した発光スペクトル計算と学会での発表を次年度に行うこととし、未使用額はその経費に充てることにした。 【使用計画】活性中心の構造解析に必要な解析ソフトおよび、これまでの研究成果を発表するための研究成果発表・論文投稿費用に使う。
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Research Products
(8 results)