2017 Fiscal Year Research-status Report
グローバルな学生移動のアジアからの再考:欧米比較と新たなモデルの提示
Project/Area Number |
17KT0120
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
石川 真由美 大阪大学, グローバルイニシアティブセンター, 教授 (90379230)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
LI MING 大阪大学, グローバルイニシアティブセンター, 特任助教(常勤) (50778107)
|
Project Period (FY) |
2017-07-18 – 2020-03-31
|
Keywords | 移動・越境 / 高等教育 / 教育政策 / 比較研究 / 学生移動 / 留学 / 国際化 / アジア人材 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、従来、欧米の視点から理解されてきた、国境を越えた学生移動(「インターナショナル・スチューデント・モビリティ」あるいはISM)をアジアの視点から再考する。そして、地域内の国家間・大学間で激化する「競争」と人材流動の推進による「協調」を牽引力として拡大する東アジア型のISMを、ヨーロッパのISM、英米のISMモデルと比較し、新たな「グローバルISMモデル」を提示することを目的とする。 近年のISMの世界的な拡大は、欧米においては主に高等教育の商業化に起因すると理解され、アジアは欧米の大学に学生を送り出す「供給地」「顧客地域」と位置づけられてきた。一方、欧州においては、エラスムス・プログラムを例とする、政治主導の域内学生交流がトップダウンで推進されてきた。本研究では、これらの欧米モデルとは全く異なるダイナミクスで推進される、東アジア地域内の近年の学生移動に注目する。 アジアは今世紀の急速な大学国際化と積極的な留学生誘致策により、もはや単なる学生送り出し地域ではない。従って、グローバルなISMは、アジアの視点から修正され、理解されなければならない。そこで、本研究は、東アジア域内における学生移動の拡大を解明するために、まず国家間・大学間で激化する世界ランク・序列争いの大学国際化と留学生増加への影響を分析する。さらに、近隣国での留学経験をもつ新しいアジア人材に関する事例研究を中国東北部の朝鮮族の調査を通して行い、学生移動のもたらす地域内協調の可能性を提示する。すなわち、国家・大学の国際競争力強化策と学生流動への影響の解明、アジアの大学で養成されるアジア型プロフェッショナルの調査、欧米のISMとの比較にもとづき、東アジアのISMモデルの概念化とグローバルISMの理論的再構成を試みる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度においては「競争」と「協調」、すなわち国家・大学の国際競争力強化策と学生流動への影響の解明、および「協調」すなわちアジアの大学で養成されるアジア型プロフェッショナルの予備調査を行う計画であった。これらは、ほぼ予定どおり実施することができた。 まず、日本・中国・韓国・台湾において、海外研究協力者の支援を得ながら、大学国際競争力強化政策と受入れ留学生の目標値、経年変化に関する統計・データ・文献の収集と聞き取り調査を行った。また、アジアの大学で養成される、アジア型プロフェッショナルの事例として、中国朝鮮族の日本・韓国への留学に関する調査を開始した。 近隣諸国への留学経験のある中国の朝鮮族は、中国・韓国両国においてマイノリティであるが、留学・大卒後は韓国・中国双方の文化・言語を理解するバイカルチュラル人材、あるいは日本語と日本文化を含めたトライカルチュラル人材として、多くが東アジア地域において国境を跨ぎ、プロフェッショナルとして活躍している。その東アジアにおける高い移動性を支える、初等・中等教育時からの日本語教育、民族の移動の歴史、強い家族紐帯と教育への熱意・支援等について、予備的な聞き取り調査をソウルと大連において開始した。 さらに、日本においては、朝鮮族のアイデンティティ、移動、教育等について先行研究の蓄積があり、それらの多くが日本で活躍する中国朝鮮族の研究者によるものである。このような研究者による研究会への参加、文献調査、聞き取りにより様々な知見を得ることができたことは、二年目の本調査に向けて大きな収穫であった。 次年度は中国と韓国における朝鮮族の本調査と同時並行で、欧州における学生移動に関する研究動向の調査と国際学会発表を行う予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後も基本的に予定通り研究を推進するが、後半に予定していた欧州との比較研究を行う上で、新たな方策を模索し、実行する。まず、2018年6月にバルセロナで開催される国際学会5th IMISCOE (International Migration, Integration and Social Cohesion) 年次総会に研究代表者と共同研究者が共著論文を発表する。IMISCOEは欧州最大規模のマイグレーション研究者ネットワークで、当初この学会への参加予定はなかったが、年次総会において学生移動に関する多くの研究発表が予定されていることから参加を決定した。IMISCOE参加の意義としては、第一に、本研究を国際学会で紹介するとともに、欧州の研究者との情報交換を行うことである。第二に、本研究開始時に比べてさらに顕在化しつつある世界の新しい動き、すなわち欧米で進行する「国際化再考」のトレンドについての研究動向を知ることである。近年、英国のEU脱退決定(Brexit)と米国トランプ政権誕生を契機に、欧米で反移民を訴えるポピュリズム勢力が拡大し、留学生の受入にも様々な影響が見えている。しかし、反移民という観点からだけではなく、90年以降の大学「国際化ブーム」を冷静に見直す動きは、「数より質」を求める高等教育関係者の問題意識にも由来するものである。 このように、アジアからの、あるいはアジア域内の学生移動にも重大な影響を与える可能性のある、世界の最新動向について知見を得るため、本研究では欧州との研究を若干前倒しして実施する予定である。一方、東アジアにおける調査、とくに朝鮮族の留学と移動性についての分析は、当初の研究計画に沿って実行する。
|