2021 Fiscal Year Research-status Report
Multisensory Perceptions and Affiliative Responses in Interaction
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17KT0134
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
西阪 仰 千葉大学, 大学院人文科学研究院, 教授 (80208173)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
早野 薫 日本女子大学, 文学部, 准教授 (20647143)
山田 圭一 千葉大学, 大学院人文科学研究院, 教授 (30535828)
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Project Period (FY) |
2017-07-18 – 2023-03-31
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Keywords | 知覚 / アスペクト知覚 / 複合感覚 / 会話分析 / 相互行為 / ヴィトゲンシュタイン / インストラクション |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は,主に相互行為において「正確に見ること」について,(1)1つの論文を完成させる(3月に刊行)とともに,(2)新たなデータ分析を行なった(3月に講演).私たちは相互行為のなかで,あえて「正確に見ること」を行なうことがある.一方,ある対象に目を凝らして「見る」ことを行なうことは,必ずしも,より正確な情報を得ることを目的としているとはかぎらない.それは,言葉を用いることが必ずしも情報伝達を目的としているわけではないのと同様である.言葉を用いることが行為を構成することであるならば,「正確に見ること」も何らかの行為の構成と関わっている.(1)の公表された論文では,一定方向に視線を固定しながら同じ表現を繰り返すというやり方(プラクティス)に注目した.とりわけ,インストラクション(教示)において,相手(学習者)の現在進行中の振舞いを制しするために上のやり方を用いるとき,すなわち,「進行中の振舞いの連続的過程を途切れなく見ること」をあえて行なうとき,このことが,とくに(「実演」に対する)「訂正」という行為タイプの構成部分となることを,明らかにできた.(2)の新たに開始した分析では,ある対象に触れながら,前かがみになりその対象に目を近づけるというやり方に注目した.このような「詳細を調べる」ことをあえて行なうことは,「XXできるか」という可能性もしくは能力を問う質問が「依頼」という行為タイプを構成してしまうのを回避するやり方となることを,明らかにできた.すなわち,あえて「詳細に調べること」は,その対象の性質・構造が本当に「XXすること」を許容するものかどうか吟味することにほかならず,これとともにその質問が発せられるならば,その質問は,あくまでも「XXする可能性」を問う質問と聞かれることになる.(今年度も,研究協力者として,荒野侑甫と鈴木南音の2名が加わった.)
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度も,新型コロナ感染症の影響で新たなデータ収集(相互行為のビデオ収録)はできなかった.また,研究会合やワークショップもいつものように持つことができなかった.それでも,これまで収集した様々な場面でのデータを用いて,視覚に焦点を絞った研究を進めることができた.「研究実績概要」欄でも述べたように,成果のうち1つは,語用論分野の最も広く読まれている学術誌であるJournal of Pragmaticsに掲載された.また他の1つも,人工知能学会の言語・音声理解と対話処理研究会(2022年3月)において招待講演として報告することができた.「正確に見ること」を行なうという,両者に共通のテーマは,本研究課題の重要な分析視角である「アスペクト知覚」(ヴィトゲンシュタイン)と大いに関係がある.アスペクト知覚は,「同じ対象を見ながら異なる対象を見る」という現象である.「正確に見る」とは,ある対象(ある振舞いや物)を全体的に(「間違った手順」や「値札」として)見る見方に対し,同じ対象をその時間的過程や(書かれた数字など)諸部分の空間的配列という「面構え」において見ることにほかならない.さらに,前かがみになって「詳細を調べること」は対象に触れることを伴っていたし,一定方向に視線を固定しながら同じ表現を繰り返すときも,発話者は,しばしば,相手(学習者)の触れている物あるいは相手の身体部位に触れる.そのなかで,本研究課題の「複合感覚」との関連でも,次のことが観察できた.視覚と触覚は,自己および相手の身体の多様な動きの時間的空間的配列の全体構造の一部となっていること.そのなかで,参加者たちは,相手がある対象に触れているのを見るだけではなく,相手がその対象をどう触知しているかを見るという共感覚的な状況が成立すること.これらを具体的に示すことができた.
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は,この間実施することのできなかったワークショップをぜひ行ないたい.おそらく本研究課題の最終年度となるため,相互行為における「アスペクト知覚」および「複合感覚」というテーマについて,個別の研究成果をできるだけ多く発表することを目指すとともに,総括的な議論の展開を図りたい.そのために,哲学,言語学,社会学の立場から,直接議論を交わす機会がぜひとも必要と考える. 現在次のような予定がある.6月末に,研究代表者は,スイスのバーゼル大学のワークショップで,ヴィトゲンシュタインの「アスペクト知覚」概念を,視覚の相互行為分析にどう応用できるかについての講演(オンライン)の招待を受けている.相互行為におけるアスペクト知覚に関する総括的議論を展開するための最初の機会として利用したい.研究代表者は,9月に,アメリカ合衆国のテキサス大学で開催される「相互行為において触れ合うこと」に関するシンポジウムに招待されている.ここでは,人工知能学会で講演した内容を,さらに「複合感覚」もしくは「共感覚」に引き寄せた形で報告する予定である.3月には,連合王国のヨーク大学における講演(オンライン)の招待も受けており,ここでも,なんらかの形で,知覚に関する全般的な議論が展開できるよう準備する予定である. 2023年に,新型コロナ感染症の影響で延期になっていた国際会話分析学会がオーストラリアで開催予定である.いくつかの知覚に関するパネルセッションで発表できるよう準備を開始しつつある.研究代表者個人の報告として,相互行為における複合感覚的な空間知覚の組織に関する報告を,研究協力者の鈴木南音との共同報告として,相互行為における運動感覚の組織に関する報告を考えている.また,研究分担者の早野薫も,知識と知覚に関する報告を検討中である.
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Causes of Carryover |
新型コロナ感染症の影響で,データ収集(相互行為のビデオ収録)が2020年度より困難な状況にあり,そのため,2021年度も若干の使い残しが生じた.次年度使用額は,大きな額ではないので,英文校閲などで使い切る予定である.
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Research Products
(5 results)