2019 Fiscal Year Annual Research Report
Decision making in oral performances in Ancient Greek and Egypt
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17KT0136
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
高橋 秀樹 新潟大学, 人文社会科学系, 教授 (80236306)
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Project Period (FY) |
2017-07-18 – 2020-03-31
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Keywords | 民主政 / ギリシア / エジプト / 意思決定 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、古代ギリシアを一つの典型とする民主的政治体制の根幹が社会構成員の対話による政治的社会的意思決定にあるとされる一方で、専制君主的政治体制の典型である古代エジプトにおいても対話文化が重要な役割を果たしていることに注目し、両者のオラリティ文化の比較から、民主的政治体制のオラリティ文化の核心的部分を探ろうとするものである。古代ギリシアのオラリティ文化について、言語コミュニケーション以外の描写と連動させて分析することができる素材(叙事詩作品)を用い、政治社会的意思決定の脈絡の中での特性を分析する作業を進めた。 成果の一部を「ゼウス神の卓越性~『イーリアス』第XV書に見る強制(強請)行為~」『資料学研究』Vol.17, pp.1-28,2020年3月にて公開した。この論考において、これまで『イーリアス』を資料として検証されてきた、古代ギリシア固有の対話文化における強制(強請)発言の原則的傾向について、その巧みな技法的運用を知ることができた。他にどのような技法的ヴァリエーションが見られるのか、またそのことが『イーリアス』から知られる社会像の理解にどのような光をあてることになるのか、等の新たな課題への展望を得た。 海外調査については、ベルリンの博物館島にあるペルガモン博物館、旧博物館、新博物館、ダブリンにあるチェスター・ビーティー・ライブラリー及び国立考古学博物館で調査を行った。これらの調査により、古代ギリシア、エジプトにおけるオラリティ文化の貴重資料を実見することができ、文書史料研究を大いに補強することができたが、同時に新たな課題に取り組む必要性を痛切に感じるに至った。それは、古代ギリシアと古代エジプトを連結した時代と地域、とりわけ古代キプロスの文物の精査である。この件については、次の研究課題で大きく取り上げていきたい。
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