2019 Fiscal Year Annual Research Report
Anthropological Study on Poetic Orality: Cultural Succession and Creative Practice in Tai Society of Southwest China
Project/Area Number |
17KT0144
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Research Institution | National Museum of Ethnology |
Principal Investigator |
伊藤 悟 国立民族学博物館, 人類基礎理論研究部, 外来研究員 (90633503)
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Project Period (FY) |
2017-07-18 – 2020-03-31
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Keywords | 詩的オラリティ / タイ系民族 / 感性 / 声の文化と文字の文化 |
Outline of Annual Research Achievements |
中国西南タイ族地域には、即興的な掛け合い歌をはじめ、霊媒師の歌、歴史叙事詩の語り、詩文形式の宗教テクストの朗誦などが根付いていた。本研究はこうした文化的コミュニケーションの技法と能力を詩的オラリティと捉えた。本研究の目的は、声と文字の文化の継承に取り組む民間活動の事例から、人々がいかにしてこれまで感覚的に共有してきた詩的オラリティを意識化し、伝承体系を革新しようとしているのかを解明し、社会生活における詩的オラリティの意義を再考するものであった。 今年度は仏教経典を古文字から新文字へ翻字する活動の現地調査や、現地の多種多様な文書・視聴覚・写真資料のアーカイブズ作業を行った。 本研究を総括すると主に次の点が明らかになった。声や文字の文化の伝承活動について、行政や研究機関が主導となる場合は声や文字のテクストをモノとして収集・保存することが中心であった。他方、当事者は声や文字を活動の一形態とみなし詩的オラリティとそれを用いる身体技法の伝承を重視した。 民間の勉強会では、知識人同士が具体的実践にたいして相互批判することで問題を顕在化させ、規範の形成を試みていた。特に、声の音楽的表現という感性的側面が惰性的に実践されてきたことが問題視された。例えば、書かれたテクストの単語が書損あるいは意味不明でも、詠み手は声の表現によってそれを誤魔化して詠む傾向があった。こうした問題を解消して正しい詩的オラリティを後世に伝えるためにも、メンバーたちは古文字で書き写されてきた古文学や仏教経典を新文字へ正確に翻字し、朗誦技法や内容解釈についての録音や録画資料の作成に取り組んだ。 詩的オラリティは、身体技法として実践されるとき、詠み・聴く主体にテクストをその内側から経験させ、美的快楽をともなって道徳的・宗教的・美的価値観に触れさせる。それは個が主体となってより良い社会をつくるための私的な生活芸術であった。
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