2017 Fiscal Year Research-status Report
農産副生物の活用による農資源利用の多様性と資源循環型農業の構築
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17KT0152
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Research Institution | 岡山県農林水産総合センター生物科学研究所 |
Principal Investigator |
鳴坂 真理 岡山県農林水産総合センター生物科学研究所, その他部局等, 特別流動研究員 (80376847)
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Project Period (FY) |
2017-07-18 – 2020-03-31
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Keywords | バイオスティミュラント / 農産副生物 / 植物免疫 / バイオサイクル / 病害抵抗性 |
Outline of Annual Research Achievements |
地球上では耕地面積が限定されているにもかかわらず、人口は増加し続けており、近い将来に食糧危機がおとずれることが予見されている。この喫緊の課題を解決するために、新たな資源確保が必要である。非可食性植物および作物の非可食部分は、食料と競合しない貴重な農資源である。これら未利用資源について、有効な活用法を見出し産業利用することができれば、次世代の第1次産業の構築にとどまらず、新たな産業の創出に貢献することとなる。私たちは、農資源利用の多様性を図るため、農産物の生産過程で未利用な資源(農産副生物)をバイオスティミュラントとして活用し、農業生産および食料生産と農産副生物のリサイクルを統合した資源循環型農業(バイオサイクル)の確立にむけて、環境にやさしく、持続的な生産活動をめざす。 バイオスティミュラントとは、様々な有機物からなる植物の活力を高める資材であり、植物ホルモン、栄養素、有機酸、ビタミン、微生物、植物エキスなどがある。植物のストレス期や生育期に正の効果がある資材と定義されており、植物が本来有している免疫力を高める作用を持つもの(バイオ農薬)や、生育を促進するもの(バイオ肥料)として活用される。 今年度は、作物の非可食部分として、エノキダケの石づき部分に着目し、これを熱処理した抽出物がアブラナ科植物の防御応答遺伝子の発現を誘導すること、さらに、アブラナ科植物に感染する病原菌の増殖を抑制することが明らかとなった。また、新たなバイオスティミュラント候補として、ショウガ地上部を見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
エノキダケの石づき部分は非可食部分であり、産業利用されていない。そこで石づき部分に着目し、有効成分の抽出方法の検討を行った。エノキダケの石づき部分に水を添加して破砕し凍融解した。その後、オートクレーブによる熱処理を行い、エノキ抽出物を得た。次いで、本抽出物がバイオスティミュラントとして活用可能かどうかを検討するため、100倍希釈した抽出物をモデル実験植物シロイヌナズナに噴霧処理後、継時的に防御応答遺伝子の発現を解析した。その結果、本資材が、サリチル酸経路およびジャスモン酸/エチレン経路の複数の経路を活性化することが示唆された。シロイヌナズナはアブラナ科植物であり、シロイヌナズナに感染する病原菌として、アブラナ科野菜類炭疽病菌およびアブラナ科黒斑細菌病菌が知られている。そこで、シロイヌナズナに抽出物処理2日後に両病原菌を接種し、その感染量を定量した結果、抽出物処理により感染が抑制されることが明らかとなった。さらに、アブラナ科作物のハクサイ幼苗について、同様の処理を行ったところ、炭疽病菌に対する感染抑制効果も認められた。 また、新たなバイオスティミュラント候補として、ショウガの地上部を見いだした。ショウガは食用として用いられるだけではなく、世界中で香料や薬用としても利用されており、健康増進には欠かせない作物である。このように、地下部は利活用されているが、地上部は産業利用されていない。そこで、岡山県で栽培されるショウガ地上部から有効成分の抽出を試みた。その結果、作物病害の感染を抑制する効果が認められた。
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Strategy for Future Research Activity |
ショウガの地上部を新たな農資源として活用するため、ショウガの地上部から有効成分の抽出を試みる。ショウガの地上部は非可食部分であり、産業利用されていない。予備的な実験により、ショウガ地上部の抽出物は作物病害の感染を抑制することを発見した。H30年度は、ショウガ地上部の有効成分の抽出法を検討し、私たちが有しているバイオアッセイ系により、病害抑制効果を検証する。その結果、バイオスティミュラントとして利用可能となれば、新たなバイオサイクルの確立が期待できる。私たちが有するバイオアッセイ系では、ナス科(タバコ、トマト)およびアブラナ科作物(ハクサイなど)に資材を処理し、ウイルス(トマトモザイクウイルスなど)、糸状菌(炭疽病菌など)、細菌(黒斑細菌病菌など)を接種し、その防除効果の定量化が可能である。エノキ抽出物については、炭疽病および黒斑細菌病に対する病害抑制効果が認められたことより、今年度は、植物ウイルスに対する抑制効果を検討する。また、ショウガ地上部についても病害抑制効果を検証し、バイオスティミュラントとして活用できるかどうかを検討する。
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Causes of Carryover |
2月に3週間の入院と、その後に長期間のリハビリを要したため、予定していた新規バイオスティミュラント候補の新たな選抜を次年度へ計画変更することとした。
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