2006 Fiscal Year Annual Research Report
プレB細胞受容体シグナル伝達異常による白血病の多段階発がん機構
Project/Area Number |
18012043
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
北村 大介 東京理科大学, 薬学部, 教授 (70204914)
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Keywords | 癌 / シグナル伝達 / 遺伝子 / 白血病 / 癌抑制遺伝子 / 急性リンパ性白血病 / プレB細胞レセプター |
Research Abstract |
B前駆細胞性急性リンパ性白血病(pre-B ALL)は小児の悪性新生物の中で発症率が最も高く、分子標的治療の開発のためにその成因の解明が急務である。BASHはB細胞初期分化に必要なpreBCRシグナル伝達因子であり、BASH欠損マウスの骨髄ではpreBCR陽性の静止期大型プレB細胞が蓄積し、それ以降の分化が抑制されている。このマウスの約5%に早期に悪性のpre-B ALLが発症した。また、小児pre-B ALLの約半数例で白血病細胞内のBASHの発現が消失していた。したがって、BASHはプレB細胞の癌抑制因子と考えられた。PreBCRそのものを欠損するマウスは白血病とならないので、BASHを介する特異的シグナルがプレB細胞の癌化を抑制していると考えられる。また、その発症率から考えて多段階の遺伝子異常の蓄積が癌化に必要であると思われる。BASH欠損マウスをモデルとして、また、発症したマウスから樹立したプレB白血病細胞(BKO細胞)を用いてこれまでに以下のことがわかった。 1)BKO細胞ではJak-STAT5シグナル経路の恒常的活性化が起こっており、SOCS1を外部より導入すると細胞は死滅した。また、IL-7が異所性に発現しており、抗IL-7受容体抗体の添加により3/4の細胞株は死滅した。よってIL-7のautocrineがこれらの細胞株の腫瘍性増殖の原因のひとつであると考えられた。 2)BASH^<-/->マウスとSTAT5活性型変異体(STAT5-CA)のトランスジェニックマウスとの交配で作製したBASH^<+/->,STAT5-CAマウスの約90%に白血病が発症した。その白血病細胞内のBASHの発現はほぼ消失していた。以上より、in vivoにおいてBASHの消失とSTAT5の恒常的活性化が相乗的にプレB細胞の白血病化を促進することがわかった。 3)BASHをBKO細胞に再導入すると、STAT5活性の抑制と細胞周期のG1停止が起こった。よって、BASHにはSTAT5あるいはその上流の経路の活性を抑制する働きがあると考えられた。活性型PKCηは同様にG1停止を誘導したが、RasやRaf1は誘導しなかった。 以上より、何らかの遺伝子変異かエピジェネティックな変化によりBASHの発現消失とJak-STAT5シグナル経路の活性化がプレB細胞に起こり、さらなる何らかの遺伝子変化が加わってpre-B ALLが発生するものと考えられる。
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