Research Abstract |
急速眼球運動の発現には,前頭眼野(frontal eye field, FEF)が深く関与していることが,古くから知られてきた。しかしながら,最近,Fukushimaら(1998)は,FEFには,サッケードに関連する細胞だけでなくsmooth pursuitに関連する細胞があり,さらにこの領域の単一細胞からは,網膜像の速度と視線速度の両方の信号が記録されることを示した。このことは,この領域に頭部の運動の速度信号すなわち前庭入力が供給されていることを示唆している。一方,前庭入力が投射する大脳の部位に関しては,複数の部位が報告されている。しかしながら,前頭眼野近傍への前庭入力様式の詳細についてはこれまで知られていなかった。そこで我々は,クロラロース麻酔下のサルの前庭神経を電気刺激し,FEF近傍で皮質表面の電場電位および層別電場電位の解析を行った。その結果,FEFの近傍に前庭性誘発電位が認められることが明らかとなった。そしてこの前庭入力が投射している領域には,smooth pursuitに際して活動する細胞が存在することを明らかにした。これまでに大脳への前庭入力の投射は,気生理学的に明らかにされたが,前庭入力を中継する視床核に関して,解剖学的には,明白な結論が出されていない。そこで,この領域に神経標識物質を注入し,逆行性に標識される細胞の分布を解析した。視床内では,CL核(nucl, centralis lateralis),MD核(nucl. medialis dorsalis),VA核(nucl. ventralis antrerior),VL核(nucl. ventralis lateralis)に逆行性に標識された細胞が分布していた。大脳皮質領域では広範に逆行性細胞が分布しており,従来「前庭皮質」とされてきた複数の領域から投射を受けていることが明らかとなった。
|