2006 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18021006
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
坂野 仁 東京大学, 大学院理学系研究科, 教授 (90262154)
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Keywords | 嗅覚系 / 嗅覚受容体 / 軸索投射 / 活動電位 / cAMP / LCR / 遺伝子発現 |
Research Abstract |
背景・目的:高等動物の脳では多数の神経細胞が互いに軸索を伸ばしてつながりあい秩序だった神経回路を形成している。しかしながら、多様な神経細胞の一つ一つが担う役割、即ち神経個性がどのように分子コード化されてシナプス形成が行われているのかについては殆ど解明されていない。我々はこの問題を解決するためマウスの嗅覚系に着目し、嗅神経回路と匂い地図形成の分子機構を明らかにすべく研究を行った。 方法:遺伝学的に様々な工夫を凝らした遺伝子操作マウスを作製した。中でも、一種類の嗅覚受容体遺伝子をほぼ独占的に発現するトランスジェニックマウスや、接着因子を強制発現する嗅神経細胞とそうでない嗅神経細胞をほぼ半数ずつ作り出すモザイクマウスなど、他のグループには無い我々独自のシステムを開発した。 結果:嗅球上のどの番地の糸球に嗅細胞の軸索が収斂して投射するかという謎に対し、我々は、嗅覚受容体分子そのものではなく、嗅覚受容体を介したシグナルが重要な働きを担っていることを明らかにした。即ち、嗅覚受容体に共役するGsタンパク質が、シグナルに応じて異なる濃度のcAMPを産生し、これをcAMP依存的プロティンキナーゼAが感知して、CREB転写因子などを介し軸索伸長因子の転写量を制御しているという研究成果を得た。また、軸索の接着性と反発性を制御する一連の分子が、個々の嗅神経細胞の持つ嗅覚受容体の種類に応じて固有な発現量を示し、いわば分子コードとして軸索末端に発現していることを突き止めた。その結果、同種の嗅覚受容体を発現する嗅神経細胞の軸索は収斂し、糸球構造を形成する事が明らかとなった。 考察:嗅神経細胞は約一千種類の嗅覚受容体遺伝子の中から、一種類のみを選択的に発現することで個々の神経個性を確立している。本研究の成果より、嗅神経細胞の軸索の選別に関しては、嗅覚受容体分子の種類に連動して制御される接着及び反発分子の発現量が、神経個性を表現する分子コード、即ちneuronal identity codeとして軸索末端に表現されるという画期的概念が示された。ここで得られた嗅覚系の一次投射に関する研究成果は中枢神経系における回路形成という脳科学の最重要課題の理解に重要なヒントを与えるという意味でその意義は大きい。更に今後の課題として予定されている二次投射に関する研究は、入力される情報の統合と分配、即ち情報のeditingという脳の高次機能の理解に道を拓くものとしてその展開が期待される。
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Research Products
(4 results)