Research Abstract |
Antioxidant-binding catalytic protein(ABCP)は,アストログリアなどを含む多くの組織で発現している。加齢や変性疾患でABCPの減少が報告され,DNAのダメージや酸化ストレス,細胞死との関連も示唆されている。ABCPは,統合失調症と連鎖が繰り返し報告される染色体座位にコードされている。また,ABCPにはGlu>Alaの多型が確認されているが,統合失調症の2つの多発家系でABCPのGlu>Alaとの連鎖も報告された。そこで,ABCP遺伝子のプロモーター領域とexon/intron junctionを含む全exonについて,多発家系の発端者50例を用いて変異・多型解析を行った。その結果,一卵性双生児の一致例において,exon1にadenineのinsertionを同定した。これによりframe shiftが生じるため症例では異常な15アミノ酸をコードしたのちstop codonが生じていた。この一卵性双生児の家族は,自殺した同胞1名と統合失調症の叔父が2名いる多発家系であり,家系内でframe shiftが共分離している可能性が示唆された。双生児の末梢血リンパ球を用いてRT-PCR,Western blotを行った結果,mRNAおよびタンパクの発現ともに健常者の50%まで低下していることを確認した。さらに,末梢血赤血球を用いてABCPの活性を測定したところ,双生児では健常者の50%の活性であることも判明した。双生児においては,ABCPの活性低下により代謝経路の下流に位置する有害蛋白質の増加が予測されたが,実際に双生児の有害蛋白質は健常人の3倍に増加していた。また有害蛋白質の無毒化に動員される中の分子が正常値の20%にまで低下していた。 こうした家系が他にもいないか確認するために,統合失調症1101例と健常者857例を用いてABCP遺伝子のresequenceを行った。その結果exon4でcytosineのdeletionを生じた結果frame shiftをきたした統合失調症と健常者を1名ずつ同定した。この2名でもABCPの活性は50%に低下していた。患者では有害蛋白質の上昇と中和分子の低下を検出したのに対し,非発症者では有害蛋白質と中和分子ともに正常値だった。 家系で連鎖が報告されたABCPのGlu>Ala多型に注目し,Ala型とGlu型のABCPのcDNAをCOS-7に発現させて活性を測定した。その結果,Ala型はGlu型より約20%低い活性を示した。そこで,統合失調症1101例と健常者857例でGlu>Ala多型を検討したところ,1101例の統合失調症ではAlaのホモ接合体が7例認められたのに対し,857例の対照からは1例も検出されなかった。そこで,Alaのホモ接合体のABCP活性を測定したところ,Gluアレル保持者より約20%低下していた。さらに,Alaのホモ接合体の末梢血において,有害蛋白質は有意に増加していた。これらの事実は,双生児でみられた特殊な変異が,より一般的なAlaのホモ接合体(frame shiftより機能的にマイルドな変異)においても再現されている事を示しており,ABCPの機能低下と酸化ストレスを含むカスケードが,統合失調症における病態解明の新しい手がかりとなる可能性が示唆された。
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