Research Abstract |
本研究は,数MHz〜90GHzの広い周波数領域のESRを常圧〜3GPaの圧力範囲で行い,分子性結晶の電子状態を探り種々の物性発現機構解明を目指した。取り上げた物質は,分離積層型の(Dme-DCNQI)_2M,(M=Li,Ag),β'-,β"-(BEDT-TTF)(TCNQ),(BEDT-TTF)_2IC1_2,K-TCNQ,交互積層型の(BEDT-TTF)(ClMeTCNQ),(BEDO-TTF)'(Cl_2TCNQ)やDNA等である。 B"-(BEDT-TTF)(TCNQ)は,BEDT-TTF2次元シートとTCNQ1次元鎖が交互に配列する分離積層型でquarter-filledの系である。ESRスペクトルで見いだされた,低温における常磁性的,非対祢な広がりは,BEDT-TTFシート上の伝導電子を介したTCNQ鎖の局在スピン間のRKKY相互作用を仮定することで理解することができた。 Mott絶縁体(BEDT-TTF)_2IC1_2の絶縁体-金属転移における電子状態の変化を探るために,3GPa以下の圧力下ESRにより,圧力-温度相図を求めた。2.5GPa程度でネール温度が飽和する傾向か見られた。さらに高圧での測定を行うために,以下に示すように新たな装置の開発を進めている。 DNAに導電性を持たせるためにいくつかの2価金属ドープを試みたが,電子注入は実現しなかった。しかし,2価の鉄をドープした場合は,鉄イオンが3価になり電子が1個DNAのπバンドに注入されている可能性がある。この試料はもろいために電気抵抗の測定がむずかしい。丈夫なフィルム状の試料を得ることが課題の一つである。 低周波ESRは振動磁場をコイルで発生させるので,圧力セルの中に組み込むことが容易である。圧力下ESR測定は,結合がやわらかい有機物質の磁気的性質を調べるために大変有用である。そこで,キュービックアンビルセルを利用して,10GPaまでの圧力下で測定ができる装置を開発している。ほぼ完成に近づいているが,ハムや浮遊容量が原因と思われるノイズの対策が残っている。
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