Research Abstract |
プリオンを用いた温度ジャンプ実験を行うためには,大量のリコンビナント・プリオン・タンパク質が必要となる。そこで,今年度は様々の発現ベクターを構築し,リコンビナント・プリオン・タンパク質の大量発現,精製,酸化,及びリフォールディングを行った。そのため,MCT検出器と光学除振台を購入する予定を変夏し,リコンビナント・プリオン・タンパク質精製に必要な高速液体クロマトグラフィーシステム(AKT Apurifier UPC10)を購入した。主に,マウス・プリオン・タンパク質(23-231,120-231等)に関し,大腸菌用に最適化された配列を用いた。実際に安定同位体を用い,NMR測定が可能な15Nラベルされたリコンビナント・プリオン・タンパク質を作成した。以前は,全長(23-231)のプリオンは非常に不安定で,0.02mM以上の濃度で容易に凝集したが,現在は0.2mM以上の濃度でも安定に分散させておくことが可能となった。この結果,短時間でNMRスペクトル測定を行うが可能となった。収量も増加し,自動的な供給体制が構築されつつある。 一方,プリオンの速いフォールディング反応を追跡するため,昨年度,ナノ秒分解能をもつレーザー温度ジャンプシステムの開発を行った。すなわち,YAGレーザーにより発振された波長1064nmのパルスレーザー光を,水素ガスを封入したラマンシフターで1907nmに変換し,サンプル水溶液の吸収により,サンプルの温度を上昇させる。観測はXeランプを用いた白色の連続光を用い,ナノ秒時間分解能を持つ光電子増倍管を用いて観測する。このシステムにより、温度ジャンプに伴う蛋白質のナノ秒スケールでの応答を、紫外吸収や蛍光を用いてモニターすることが可能となった。今年度は,β-ラクトグロブリンの低温変性からの巻き戻り反応で観測された,30μs程度の時定数をもつ新たな相である非指数関数的フォールディング過程の理論的解析を行った。
|