Research Abstract |
蛋白質構造形成の初期過程の観測において,これまで一般的に用いられて来た高速混合法の不感時間は100マイクロ秒からミリ秒のオーダーであり,蛋白質の構造形成過程を観測するには不十分な場合が多かった。マウスプリオンのフォールディング反応においては,ヘリックスB,Cの形成反応は約50μsの時定数であるが,ヘリックスAの形成反応はさらに速く,時定数を求める試みには成功していない。 我々は,本研究プロジェクトにおいて,蛋白質の速いフォールディング反応を追跡するため,ナノ秒分解能(不感時間:300ナノ秒)をもつレーザー温度ジャンプシステムを開発した。本システムでは,YAGレーザーにより発振された波長1064nmのパルスレーザー光が,水素ガスを封入されたラマンシフターを通り1907nmに変換される。このレーザー光はサンプル水溶液に吸収され,サンプルの温度を10ナノ秒で15~30℃上昇させる。本プロジェクトでは,蛍光,及び赤外吸収で観測するシステムを構築した。 赤外ランプから出た赤外光を,バンドパスフィルターで選択して(1600cm^<-1>,1664cm^<-1>)プローブ光とし,ナノ秒の時間分解が可能なMCT検出器で観測した。このシステムにより温度ジャンプに伴う蛋白質の二次構造応答をナノ秒時間分解でモニターすることが可能となった。 我々は,全長プリオンタンパク質(F175W)を作成し,それが低温で不安定化する現象を解析した。さらに,本システムを用い,この状態からの全長プリオンタンパク質(20μM)の温度ジャンプ・レスポンスを観測し,1600cm^<-1>において,約20μs程度の時定数をもつ新たな相を発見した。この相はいままで観測されたことのない特徴的な挙動を示しており,プリオンの立体構造形成に関する新たな知見である,と考えられる(論文作成中)。以上の研究によ,り,1分子ナノ秒時間分解フォトンカウンティング観測装置,及びNMRによる原子分解能温度ジャンプ観測装置の開発にも見通しが立った。
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