2006 Fiscal Year Annual Research Report
水溶液中の溶質が感じるポテンシャル揺らぎと溶質間相互作用
Project/Area Number |
18031028
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
秋山 良 九州大学, 理学研究院, 助教授 (60363347)
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Keywords | 化学物理 / 生物物理 / 統計力学 / 分子認識 / 計算物理 / 水のゆらぎ / エントロピー / 溶媒の並進運動 |
Research Abstract |
大きく分けて3つの結果が得られているので、以下にそれぞれ記す。 1.分子サイズの溶質の感じる静電ポテンシャルの揺らぎをDRISM-HNC理論とSPC/Eモデルの水を用いて研究した。なお、溶質電荷は-2.5eから+2.5eまで連続的に変化させて計算をおこなった。常温常圧の水に対する計算の結果、溶質電荷の増大に対する水の応答は誘電飽和の描像とは逆の傾向を示すことが示された。更に、それぞれの溶質電荷に対して、部分モル体積を計算した。溶質と水の間の動径分布関数と部分モル体積の溶質電荷依存性の結果から、溶質電荷の増大により構造破壊領域の拡大を伴う水和構造の変化が生じるという描像を得た。 2.DRISM-HNC理論の結果は、電荷の増大に伴い静電ポテンシャルゆらぎが増大することを示唆している。我々は、水それに和構造に基づく説明を与えた。しかし,水和状態と水分子間の相関という視点からの考察は十分ではなかった。そこで、分子シミュレーションによる計算を開始した。まず、DRISM-HNC理論の場合と同様の物理量について計算を行い、上記の結果との比較。検討をおこなった。その結果、一辺30Å程度の立方体を基本セルに用いた場合、溶質電荷が-0.5eから+1.0e程度の範囲では、シミュレーションの結果とDRISM-HNC理論の結果との整合性は良い。しかし、溶質電荷の絶対値が大きい範囲では、揺らぎが飽和し、逆に減少し始める事が分かった。いくつかの基本セルサイズを用いたシミュレーション結果は、大きなサイズの基本セルの場合ほどDRISM-HNC理論との整合性が良い。従って、溶媒和殻が基本セルの境界に及ぶ事で、揺らぎが抑制されDRISM-HNC理論との違いを生み出していると考えられる。よって、DRISM-HNC理論の方か現実に対応している可能性が強い。今後より大きな基本セルサイズを用いてこの問題を検証してゆく必要がある。溶媒間の相関こダイナミカルな性質に注目して上記の解釈の再検討をおこなったが、まず上記のセルサイズの問題を解決する必要がある。また、水以外の溶媒(アセニトリル)について計算が進行中である。 3.細胞質では多数の巨大分子が混み合っており巨大生体分子自身の安定性にも強く影響すると考えられ、議論されて来た。従来、この問題の理論的取り組みは、主に巨大分子に着目して行われて来た。そうした従来の取り組みに対して、我々ほ溶媒分子の自由度の効果を調べる為に、溶媒分子をも露に扱う模型に対して液体の積分方程式理論(OZ-HNC理論)を解く事でこの問題を再検討した。多くの枯渇力の議論の場合と同様に、巨大分子を含む各分子間の直接の相互作用は剛体相互作用とした。すなわち、巨大剛体球を中剛体球(混み合い分子)、小剛体球(溶媒分子)二成分流体の中に沈め、二つの巨大球間の平均力ポテンシャルを評価した。その結果、混み合い分子が希薄な場合ですら、1)巨大球間相互作用の引力部分は大きく、その大部分が溶媒分子の並進運動に由来している事、及び、2)巨大球間相互作用における混み合い分子添加効果を定性的に説明する為に、混み合い分子添加に伴う溶媒分子を含めた全体積充填率の変化が極めて重要である事が分かった。
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