2006 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18066005
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
笹井 理生 名古屋大学, 大学院工学研究科, 教授 (30178628)
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Keywords | 生物物理 / 化学物理 / 自己組織化 / 生体分子 / 蛋白質 |
Research Abstract |
本研究課題では、蛋白質による高効率化学反応制御の基本原理の解明を目指す。複合電子系としての酵素による反応、および、それを引き金として生じる蛋白質の大規模構造変化による情報伝達、エネルギー変換を理解するためには、蛋白質および蛋白質の周囲の水分子の動きを的確に捉え、電子論的な分析と実験との橋渡しをする動力学の概念と理論的方法を見出すことが必須である。この研究では、蛋白質フォールディングの研究で開発されたエネルギーランドスケープ理論を蛋白質の情報伝達、エネルギー変換反応に適用し、蛋白質の大規模構造変化に伴う柔らかいダイナミクスを解明して新しい分子理論を展開するための研究を遂行した。 とりわけ、数1000残基を含む巨大な系を解析する粗視化計算モデルを開発し、ATPが分解されて生じたADPまたはPiがミオシンから放出された後のミオシンの構造変化、およびアクチンとミオシンの相互作用変化を追跡した。その結果、次の3つの因子が力学的エネルギーヘの変換に重要であることが明らかになった。1)ミオシンがアクチンと相互作用を始める際、いったん部分的にアンフォールドして、その後、新しい構造へフォールドする過程の一方向的変化とミオシンがアクチンフィラメント上を一方向に滑る運動が協調的にカップルする。2)ミオシンの構造変化に伴い、レバーアームの運動が生じる。3)ミオシンとアクチンの電荷の間の静電相互作用が安定化する方向にミオシンはアクチンフィラメント上を一方向に滑る。これら3つの因子が複合的に働く結果、ミオシンが逆方向に運動するのは1割、順方向に運動するのは9割程度と運動の一方向性が現れた。アクチンモノマーの直径を単位として、ミオシンは1単位、ないし2単位分、順方向に滑ることが示された。 また、DNAからRNAが転写される過程とリプレッサーなど制御タンパクにより転写が制御される過程をモデル化し、確率過程シミュレーションを行って遺伝子発現の反応理論を展開した。
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