2008 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18079004
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
福島 孝治 The University of Tokyo, 大学院・総合文化研究科, 准教授 (80282606)
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Keywords | 統計力学 / 物性基礎論 / モンテカルロ法 / スピングラス / 情報基礎論 / 相転移 |
Research Abstract |
今年度の研究実績は大きく三つの部分に分けられる. 一つ目は前年度に提案した「稀な事象」を効率よくサンプルする確率アルゴリズムの展開である. 前年度からの進展としては、新たな話題として、情報通信の誤り訂正符号の問題で大きな復号誤差を伴う通信ノイズの抽出に応用し、論文にまとめた. また、ランダム行列にも応用し、特に最大固有値がゼロになる、つまり全ての固有値が負になるランダム行列の抽出に成功し、その実現確率の行列サイズに関する漸近形を評価することができた. これまでは理論的に対称性の高い場合のみ解析的な研究がなされてきたが、今後は広く一般の場合の研究に対する数値的な手法が確立できたことになる。二つ目の成果は、この特定領域研究の主要な話題のひとつである情報理論やランダム系の統計力学の問題は、二重平均の確率モデルで表現できる共通性をもっている. 特に、解析的にはレプリカ法がひとつの重要な手法になるが、その正当性を吟味するために、レプリカ法の中でとられる極限問題を詳しく調べる必要がある, いわゆるレプリカ極限も問題であるが、我々の目的のひとつはその問題を非摂動的に調べるために数値計算手法を確立することであった. 一見、非常に限定的な問題に思われるが、統計力学の手法により、かなり広いクラスの問題は熱欲が二つあり、時間スケールが分離している非平衡統計力学の問題に対応する. 今年度はそこでの多体問題に対応できるモンテカルロ法を考案した. それが具体的に実装できることを確認し、生物進化の問題に応用することに成功した. そこでは、有限のレプリカ数の物理的実在を考え、有限温度の性質を使って、進化の重要な概念である頑強性の獲得に関する知見を得ることができた. 今後は、情報理論やニューラルネットワークの問題への展開を模索している. 3つ目にはレプリカ法を用いたときの、レプリカ対称性の破れに関する一般的な知見を得たことである. これはレプリカ理論の形式が自然に熱力学構造を持つことから、熱力学的な制約条件がレプリカ理論の中に十分条件として存在することを明示的に利用している. その結果、1段階のレプリカ対称性の破れる解の具体的な構成法を提案するに至った. このことは、レプリカ対称性の破れ方に対する普遍的な性質を明らかにしただけではなく、まだ厳密解が知られていない問題に対する解の構成法の処方箋を与えていることにもなる. 今年度は疎結合スピングラス模型について、具体的な解を提示し、数値計算による検証を行った. その途中に解くべき式が、キャビティ理論の導出とまったく一致することも見い出した. これにより、ほかの理論で陽に暗に仮定されていた前提条件のいくつかは正当化でき、また物理的な解釈を与えることができた.
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