2009 Fiscal Year Annual Research Report
集光レーザービームの光圧によるタンパク質の結晶化メカニズムと結晶配列制御の研究
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18106002
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Research Institution | Nara Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
増原 宏 Nara Institute of Science and Technology, 物質創成科学研究科, 特任教授 (60029551)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
杉山 輝樹 奈良女子大学, 物質創成科学研究科, 特任准教授 (80397687)
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Keywords | 光圧 / 連続発振レーザー / 結晶化 / タンパク質 / 偏光 |
Research Abstract |
1. 光圧による結晶化誘起と結晶相制御 グリシンの軽水及び重水の飽和及び過飽和溶液を試料とした。集光近赤外連続発振レーザービームの光圧を、気液界面に作用させることにより結晶化を誘起し、作製した結晶の赤外吸収スペクトル、単結晶X線構造解析の結果から結晶相を同定した。その結果、自然蒸発による結晶化では析出しない結晶相や非常に特異な条件下のみ生成する結晶相が確認され、それらの生成確率がレーザー光強度、偏光、溶液濃度に依存することを見出した。 2. 光圧による不飽和溶液からの結晶化 グリシンの不飽和重水溶液を試料とし、1と同様の実験を行った。通常、溶液から結晶化を誘起するためには、少なくとも溶液全体が過飽和になる必要があるが、本実験では、光圧により溶液中の分子を効率よく液面に捕捉することにより、不飽和溶液から非接触に結晶化を誘起することに世界で初めて成功した。 3. 光圧による液-液相分離誘起 1と同様の実験条件下において、ガラス基板上にレーザーを集光すると結晶化は誘起されず、液面変形後に液-液相分離による高濃度液滴が形成されることを見出した。これまでに、グリシン水溶液の液-液相分離の報告例はなく、本現象も世界初の成功例である。また、生成液滴の表面に光圧を作用させると、瞬時に結晶化が誘起される事も見出している。 4. 光圧による結晶キラリティー制御への展開 試料として光学活性体を有するL-アラニンを選択し、1及び2と同様の実験を行った。その結果、左右円偏光をそれぞれ光源として用いた場合に、飽和条件下ではその結晶化時間に有意な差を確認することができ、光圧による結晶のエナンチオマー制御への大きな一歩を踏み出したと言える。またグリシンの場合と同様に不飽和条件からも結晶化可能であること確認した。 5. 光圧によるタンパク質の二次元分子集合体形成 試料として、タンパク質であるフェリチン誘導体を用い、その重水溶液において1と同様の実験を行った。照射数秒から数分後には集光スポットよりもはるかに大きな巨大二次元集合体の形成が確認された。さらに、本集合体の形成にはレーザー強度に対して明らかな閾値があることが分かり、光圧によるタンパク質三次元結晶化への手がかりを得た。 これらの結果は、分子レベルで配列制御された結晶作製及び成長が光圧により可能となることを示すとともに、今後の光圧化学分野の開拓にあたって大きな役割を果たすと考えている。
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