Research Abstract |
昨年度の結果を総括すると,液相合成のITOを用いた透明電極では十分な低抵抗化が図れない,ということであった。そこで,今年は気相合成した単層カーボンナノチューブ(SWCNT)をITOの代わりに持ちいた。研究論文に示したように,我々はSWCNTを数分で数mm成長させることに成功している。このSWCNTは触媒は基板上にあり,触媒を分離できている。しかも,導電性は極めて高くITO代替として最適の素材である。このITOを溶媒中で超音波分散し,ITOと同様に塗布,乾燥法によりガラス基板上に透明電極の作製を試みた。その結果,透過率90%前後で約3kΩ/□を得ている。これは,塗布後アニール処理したITOに比較して遜色ない結果である。今後は,SWCNTの高次の凝集体構造の制御と界面活性剤の選択と,塗布後の除去方法について検討する。なぜなら,SWCNT間のコンタクトが最も抵抗が高く,この接触抵抗を低下させるために,凝集体構造制御と界面活性剤の除去が重要になる。本研究の第二の目標は,ナノプロセシングに関する学術の体系化を図ることである。具体的な透明電極というものづくりを実施しつつ,このプロセスを包含した一般的な体系化を行い,ものづくりにフィードバックすることである。この目的達成のために,我々はSNAP(Structure of NAno-Particles)というナノ高次構造を予測するシミュレータを開発している。これまでは球形ナノ粒子を対象にしていたが,今年はITOやSWCNTのような棒状もしくはファイバー状の形状に拡張した。SNAPとしては,(1)分散過程の状態予測,(2)塗布流動過程の分散,凝集状態の予測,(3)乾燥過程における高次構造体の形成予測,の「プロセスと構造」の関係を求めることができるようになった。このSNAPを用いて,(1),(2),(3)のプロセスにより得られるナノ高次構造の最適構造を求めることを試みた。つまり,特定の構造に対し,透過率と導電性を求める。この透過率と導電性はトレードオフの関係にあり,透過率を上げると導電性は低下する。このトレードオフを解消するために,高次の凝集体構造を調べた。 その結果,ランダム構造ではなくて,凝集した配向構造が好ましいことが分かった。この理由は先に述べたように,抵抗の大部分は接点に存在するためであり,点接触から線接触にすることが低抵抗化の鍵である。次に,ではどのようにしてこのような最適構造を得るのか,という課題に対し一つの解を得た。それは,SWCNTの分散状態において,大きな静電反発を持たせることである。好ましくは-30mV以上必要になる。この状態における分散はDLVOポテンシャルが示すように,第二極小の相対位置にSWCNTが分散する。この際,最も安定な分散構造は配向構造である。一種のクーロン結晶に類似している。この配向分散状態から乾燥させると,目的の構造が得られることが分かった。現在はこのような分散状態を具体的に如何に得るかを検討している。この様に,分散プロセス,塗布プロセス,乾燥プロセスにおけるナノ構造と高次構造を予測できるシミュレータが完成すると,体系化に向けての大きな一歩になる。今年は最終年であり,SWCNTで目標達成とSNAPの完成を目指す。
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