Research Abstract |
本研究では,モデル動物系(ラットなどの齧歯類)を用いて,末梢から中枢系に到る神経経路で,聴覚情報処理における背景雑音のもつ影響を,主に電気生理学的手法と数理モデルを用いて調べることを目的とした.特に,神経活動の測定では,多点電極アレイ基板技術を応用し,聴覚現象が聴覚経路のどの部位で,どの様な神経回路網の処理の結果として生じるのかを神経符号化の観点から理解することを目指した.本年度は,研究の最終年度に当り,以下の項目を達成した.(1)神経活動の電気的活動計測の為の多点測定系の構築を完成した.(2)また,単一神経細胞のレベルでの神経符号化を理解する為に,パッチクランプ法を応用した一次聴覚野の神経細胞活動を記録する測定系を用いて,人工的なシナプス入力に対する応答を記録した.(1),および,(2)の測定系を用いて,一次聴覚野の錐体細胞と抑制性の介在細胞から,電気的な神経活動の計測を行った.この計測系を用いて,特に,200-300Hzの高周波数の入力信号に同期的に発火可能なfastspiking細胞と呼ばれる細胞の入出力特性を調べた.昨年度の結果に基づき,Kv3チャネルと呼ばれるカリウムチャネルが高頻度発火を可能にするには重要な役割を果たしていることが薬理的阻害剤や数理モデルのシミュレーションを用いることで明らかになった.こうした実験結果を基に,実体に即した神経細胞モデルを作成し,聴覚野の神経回路網を計算機上に数理モデルとして実現する基盤を得た.
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