Research Abstract |
本課題は,成人を対象に,顔,表情,視線などの多様な社会信号から他者の心的状態を推測し,それを適切な認識,応答,表出反応に結びつける社会情報処理の心理基盤,神経基盤を実証的に明らかにすることを目的としている.平成20年度は,(1)表情動画の知覚にみられる表象モーメントの研究,(2)表情と視線の相互作用に関わる神経機構に関する研究,(3)目から心を読む課題を用いた文化比較の心理・神経基盤の研究が公刊された.(1)は表情の変化速度の違いが表情の表す感情強度の違いとして知覚されるという表情の表象モーメントの存在を実証的に示した.また,(2)では,表情が,不安のレベルに依存して,視線による注意シフトが促進されるという仮説を恐怖表情と中性表情との比較により検証し,状態不安が高いと恐怖表情での視線変化が注意シフトを促進することを示した.(3)では目のあたりの領域からの感情の読み取り(白人版,アジア版「心を伝える目」テストにより測定)が,知覚する側と知覚される側がアジア系同士,白人同士の場合に一致度が高く,異文化集団で比較した場合には読み取りの一致度が下がることが示され,fMRIの画像解析によりそうした差異を反映するのが両側後方上側頭溝であることを示した.当初,平成20年度に実施する計画であった,自然な感情変化(e.g.怒り→悲しみ,驚き→喜び)と日常経験することのない感情変化(e.g.喜び→怒り,恐怖→喜び)の表情動画を用いた文化比較研究,および表情と音声の組み合わせたときの感情認知研究は現在実験準備が整った段階であり,日米の研究者間の調整がつき次第,平成21年度に実施する計画である.
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