Research Abstract |
ヒト骨格筋の生体内の収縮において,個々の筋線維が発揮しうる短縮速度については不明の点が多い。我々は「スラックテスト法」を応用した新しいシステムを開発することにより,ヒト下腿三頭筋の無負荷短縮速度(Vo)をさまざまな筋活動レベルのもとで測ることに成功し,筋活動レベルの上昇に伴ってVoが増大することを示した。本研究は,このスラックテスト法を応用し,1)筋線維組成の違い,2)加齢,3)運動,トレーニング,4)遺伝的要因などがVoおよび筋線維の動員パターンに与える影響について明らかにすることを目的とする。19年度の研究により,以下が判明した。 1.ヒトを対象とした研究 1)筋線維組成がVoおよび筋線維動員様式に与える影響:前頸骨筋を電気刺激する系を用い,i)単収縮の強縮後増強(PTP)を指標として,速筋線維比率(%FT)を推定可能なこと,ii)スラックテストによるVoが電気刺激強度に依存せず一定値をとることなどが判明した。iii)さらに,最大努力下での随意収縮では,VoはPTPより推定した筋線維組成に依存しないことがわかった。 2)遺伝子タイプがVoおよび筋線維鋤員様式に与える影響:ACTN-3(α-アクチニン-3)の遺伝子型とVoの関係について調べた結果,遺伝子型とVoの間には有意な関連性がなかった。一方,高強度の伸張性筋運動後にVo(随意最大収縮下)が顕著に低下し,徐々に回復すること,ACTH-3の遺伝子型とVoの低下の程度,回復の速度には関連性があり,正常型ホモ(R/R)の場合に低下の程度が低く,回復の速度も速いことなどがわかった。 2.ラットを対象とした研究 1)筋線維への遺伝子導入:下腿三頭筋に対し,エレクトロポレーション法により遺伝子導入を行った。まずGFP遺伝子を用いた導入実験を行い,この遺伝子が50%程度の筋線維に導入されることを確認した。また,導入された筋線維を詳細に調べた結果,筋線維タイプと導入効率は無関係であることが判明した。
|