Research Abstract |
中国の山東省と,日本の岡山県と山形県において野生ウルシと栽培ウルシ,および他のウルシ属植物の標本採集と生育環境の調査を行った。山東省では,野生ウルシが2ヵ所と栽培ウルシが1ヵ所で見いだせた。いずれもごく小規模な集団で,栽培ウルシは周辺の山から最近,採ってきて植栽したが,漆液の採取はあきらめたものであった。岡山県では,石器による漆液の採取の可否について漆畑で実験を行った。その結果,石器でつけた切り傷でもある程度漆液の滲出が認められ,縄文時代の方法でも漆液が採取できる可能性が認められた。本年度に採集した追加試料と,中国の共同研究者から得た解析結果を用いて,これまでに収集した中国,韓国,日本の試料とあわせて葉緑体DNA上のtrnLとtrnL-F領域の解析を行った。その結果,日本と,韓国,遼寧省,山東省の野生個体はまったく同じ塩基配列を持っており,中国の中央部に生育している湖北省と,河北省,陝西省,重慶市のものとは別のタイプであり,両者には5塩基において塩基置換が認められることが明らかとなった。山東省と浙江省の栽培個体は,日本タイプのものとは1塩基の塩基置換を持っていた。これまでに得られた遺伝情報を総合した結果,野生ウルシには遺伝的に異なる二つの集団があり,一つは中国中央部に,もう一つは中国東部の沿岸地域に分布していることが明らかとなった。日本で栽培されているウルシは中国東部の集団から由来しているものであり,中国東部の沿岸部から縄文時代に日本にもたらされた可能性が指摘できた。また中国東部で栽培しているウルシは,東部の野生タイプから分化したものであることも明らかとなった。木材を用いた産地同定は,木材中の安定同位体の時系列に沿った変化を,年輪を用いて調べ,それを気象条件の時系列的および地域的な変化と対比することによって,かなりの精度で特定できる可能性が認められた。
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