Research Abstract |
科学研究費補助金による3年計画の研究の初年度の活動と成果を報告する。本研究の最終目的は,光合成有効放射の季節変動及び年々変動に関する新たな知識を蓄積し,その陸域における光合成量と二酸化炭素収支への役割を明らかにする事である。本研究は,フィールドスケールと全球スケールの二つのスケールの研究から成り立っている。 フィールドスケール(加藤,ダイ,小林):中華人民共和国青海省海北地区の高原草地生態系CO2フラックズモニタリングサイトにおいて,2006年7月〜8月の3週間光合成有効放射(PAR)の観測を行った。全天PARと散乱PARの高精度な時系列データをdelta-T社製のBF-3センサを用いて観測した。得られたデータを用いて,大気-地表面間のCO2フラックスと環境要因(気温,地温,降水量,土壌水分量,VPD)のデータとの比較検討を行った。そしてNet Ecosystem Exchange(NEE)が草地に入射する散乱PARと強い依存関係にあることを見いだした。観測データから両者の関係を見ると,草地の光利用効率における散乱光の正の影響を示していることが明らかとなった。この関係は,森林では以前から見いだされていた事実ではあるが,LAIの小さい草原サイトでも観測された事が注目に値する。平成19年度には,CO2交換量の地温依存性の影響と散乱PARの影響を分離する事で,さらにこの現象について解析を進める予定である。 全球スケールの研究(ダイ,小林,伊藤):平成18年度は,アマゾン地域の熱帯多雨林における衛星データから導出した散乱PAR,直達PAR,全天PARの空間変動,季節/年々変動を解析し,これらのデータを用いてアマゾン熱帯林の総光合成量のシミュレーションを行った。この結果,熱帯林地域における光合成量の光制約条件とPARの季節変動パターンに関する新しい知見を得ることができた。この地域では,すべての場所と季節で,光合成が光条件で制約されていることが観測された。唯一の例外として,アマゾン南部の乾期では,全天PARとGPPの間に負の相関が見られた。重要な既往研究として,雲量の減少傾向が大気CO2の二酸化炭素吸収量を増やすという全球炭素循環シミュレーション結果があるが,本研究の結果はその研究を支持するものと言える。 加えて今年度はサーバインフラを整備した。このサーバを用いて,衛星によるPARの全球推定の研究を平成19年度以降に順次行ってゆく計画である。
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