Research Abstract |
本年度の研究成果は次の通りである. 貸出債権ポートフォリオについては,田中が,Tanaka(2007)において,クレジットリスクを伴う債券の上に書かれたオプション取引等の評価を与えた.また,木島・田中が,Kijma,Tanaka,Wong(2007)において,金利スワップ,国債,ベーシススワップの価格を同時に考慮できるモデルを開発した.これは金利が正値を取ることが保証された超長期の金利モデルとして保険会社の資産負債管理にも応用できる. VaR(Valua-at-Risk)の精緻化については,木島が既存研究を踏まえて,リスク指標としてのVaRの改良,安定的なVaRの計測および期待ショートフォールの実用化に向けた工学的・実務的側面の検討を行った.Kawata and Kijima(2007)では,VaR測定のためにレジーム遷移モデルを用いた分析を行った. 与信集中・企業倒産の連鎖および企業再生のモデル化については,木島が与信集中,西出が企業倒産の連鎖,芝田が企業再生を考慮にいれた負債評価モデルの構築を進めた.芝田は、.Shibata and Tian(2008)において,日本の企業再生スキームを考慮した企業の株式・負債評価モデル構築の研究を行った. 保険商品のリスク特性の分析について,木島が,川上・木島・湯前(2007)において,非完備市場の代表例である保険商品のプライシングと年金リスクを考慮した場合の企業の最適資本構成に関する研究を行った.また,Kabanov,Kijima,and Rinaz(2007)において,バーゼルII対応としての金利リスク管理や低金利環境下における期間構造モデルの開発に携わった.また,木島と田中が,資産の価格付けを測度変換の切口から解説した著書を上梓した.原は,複数の経済主体(消費者)より成る経済において,リスク許容度や主観的時間割引率の異質性が経済全体の利子率にどのような影響を及ぼすかに関する研究であった.より具体的には,連続時間の動学的経済モデルにおいで,各主体が割引率一定の時間に関して加法的(time-additive)な効用関数を持つと仮定するが,その割引率の値やArrow-Prattの相対的リスク回避度の値が主体間で異なる場合,代表的主体(representative agent)がどのような効用関数を持つかを分析した. 最後に,2007年8月6日-7日に,京都大学大学院経済学研究科金融・証券システム(大和証券グループ)寄附講座と共催で,海外研究者8名,国内研究者7名を招聘した国際会議(international workshop on financial engineering)を開催した.本会議には,6日に111名,7日に91名の方の参加があった(詳細は備考欄13に掲載したアドレスからホームページを参照されたい)。本会議では,リスク管理において金融機関が抱える諸問題について活発な議論をし,本研究成果の中間報告を行った.
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