2006 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18310158
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
市川 裕 東京大学, 大学院人文社会系研究科, 教授 (20223084)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
沼野 充義 東京大学, 大学院人文社会系研究科, 教授 (40180690)
村田 靖子 東邦大学, 薬学部, 教授 (90200302)
野村 真理 金沢大学, 経済学部, 教授 (20164741)
臼杵 陽 日本女子大学, 文学部, 教授 (40203525)
手島 勲矢 同志社大学, 神学部, 教授 (80330140)
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Keywords | 普遍主義 / 特殊主義 / シオニズム / ラビ・ユダヤ教 / アイデンティティ / イデオロギー / ナチズム / アメリカ合衆国 |
Research Abstract |
文化を、人間社会が生きていくための包括的な手段の全体像と捉えるとき、文化と宗教は不可分の関わりを有する。ユダヤ人解放以前のユダヤ人社会は、ラビ・ユダヤ教という強固な宗教文化の基盤に依拠しえた。しかし、近代のユダヤ人は、もはや宗教的統一を維持することはできなくなった。各地に出現した主権国家に帰属することが、その市民のもっとも強固なアイデンティティを形成したからである。 本年度の研究は、この「アイデンティティの危機」に遭遇したとき、世界各地のユダヤ人がどのような主張を闘わし、どういう帰結に至ったのかを主題に、5つの論題と討論を実施した。論題は、「ナチスドイツ時代の混血ユダヤ人が積極的にナチスに協力したが、戦後の裁判でどう裁かれたか」「ロシア極東の都市ハルビンになぜユダヤ人が引き寄せられ、周辺諸国、特に日本とどういう関係を築こうとしたか」「合衆国のユダヤ人が、第2次大戦中にどういう動機でシオニズム支援を決定したか」「イスラエル生まれのユダヤ人作家が作品で離散ユダヤ人を否定的に扱った意図とはなにか」「ユダヤ思想の普遍主義と特殊主義のそれぞれの立場が、20世紀の歴史的事件に対して示した態度の対立点はなんだったか」である。 ユダヤ人市民がイデオロギー国家へ忠誠を示す事例は、その国家が滅び体制変革が起こったとき、道義的責任を厳しく追及され、人格破壊のような深刻な精神的危機さえ生じた。これは極端な事例だが、近代主権国家が程度の差はあれイデオロギー性を帯びる以上、普遍的に起こりうる事態である。イスラエル国家建設もシオニズム・イデオロギーに起因し、その理念の提唱段階からユダヤ人社会の世論を二分する深刻さを学んでいたことが理解される。第2次大戦前から、合衆国のユダヤ人社会では、シオニズム支持に傾き建国を歓迎するが、イスラエル国家がその独立宣言において、捕囚(ガルート)の民の帰還を謳い、アメリカのユダヤ人青年層に大々的に帰還を呼びかけたことは、合衆国のユダヤ人社会の代表者たちには心外この上ないことであり、両者の確執が表面化した。こうして、近代ユダヤ文化史には、国家への帰属をめぐる論争が一貫して認められるのであり、今後もこれを軸に考察が進められる。
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Research Products
(6 results)