2008 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
18320002
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高橋 哲哉 The University of Tokyo, 大学院・総合文化研究科, 教授 (60171500)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大貫 隆 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 教授 (90138818)
山脇 直司 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 教授 (30158323)
黒住 真 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 教授 (00153411)
門脇 俊介 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 教授 (90177486)
山本 魏 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 教授 (70012515)
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Keywords | 宗教 / 超越 / 倫理 / ベンヤミン / 神的暴力 / 神の支配 / キルケゴール / 決断 |
Research Abstract |
宗教的経験における超越と倫理の問題に関して、今年度はとくに1)ベンヤミンにおける「神的暴力」の概念の解明と、2)キルケゴールにおける倫理と信仰の関係の解明に重点を置く計画であった。1)に関しては、「神的暴力」の原語gotliche GewaltのGewaltを、従来のように目本語の「暴力」に近い意味ではなく、ドイツ語で元来そうであるように「権力」「支配」の意味を強調して読むことで、従来まったく不明であったこの概念の意味が初めて了解されるのではないかという仮説を得るに至った。ベンヤミンのテクストと同時期に刊行されたカール・バルトの『ローマ書講解』にも、「神の力と支配」Gottes Macht und Gewalt等の用例があることからすると、「神的暴力」はむしろ聖書の最重要用語である「神の支配=神の国」bassileia tou theouの線で解釈すべきではないか。すると、「神的暴力」は単にいわゆる「暴力的」現象ではなく、裁き、赦し、恵みといった「神の義」dikaibsyune tou theou全体をさすとも考えられる。「法的暴力」「神話的暴力」と訳されてきた概念、そして『暴力批判論』というテクストのタイトルも含め、統一的読み直しを可能とする仮説を得たことは大きな成果と言える。2)に関しては、キルケゴールによる創世記22章の解釈、すなわちアブラハムのイサク奉献の決断に関する解釈をめぐって、普遍的な倫理のレベルを超えた、唯一者に対する単独者の決断を信仰の本質とするキルケゴールの解釈が、プロテスタント、カトリック、ユダヤ思想の枠を超えて、カール・シュミット、ベンヤミン、デリダなどの「決断」の思想の原型であるという結論を得た。さらに、これらの思想に共通する「メシア的なもの」としての「瞬間」の時間論と、福音書のイエスの「山上の垂訓」に見られるような現在中心的な時間論とが、どのように整合し、それが倫理的な責任の思想にどのような相違をもたらすのかを検討したが、結論は今後の課題となった。
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