2007 Fiscal Year Annual Research Report
「新旧論争」に顧みる進歩史観の意義と限界、並びにそれに代わり得る歴史モデルの研究
Project/Area Number |
18320007
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
栗原 隆 Niigata University, 人文社会・教育科学系, 教授 (30170088)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
加藤 尚武 鳥取環境大学, 大学院・環境情報研究科, 教授 (10011305)
座小田 豊 東北大学, 大学院・文学研究科, 教授 (20125579)
伊坂 青司 神奈川大学, 外国語学部, 教授 (30175195)
山内 志朗 慶應義塾大学, 文学部, 教授 (30210321)
佐藤 透 東北大学, 大学院・国際文化研究科, 准教授 (60222014)
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Keywords | 新旧論争 / 進歩史観 / 歴史哲学 / 物語論 / 美学の革命 / 新しい神話 / 超越論的観念論 / ドイツ・ロマン派 |
Research Abstract |
平成19年度の研究展開は、「新旧論争」の背景にあった「進歩史観」とは別の歴史観から18世紀末のドイツの思想界で要請された「新しい神話」について分析を試みることを中心になされた。従来はややもすると、ロマン派の復古趣味として語られてきた「新しい神話」を創出する要請は、外面的・量的に、成果を蓄積してゆくモデルで語られる「進歩史観」を乗り越えるために持ち出された標語である、という分析である。そうした共同研究の成果は、2007年6月17日、名古屋市立大学で開かれた日本ヘーゲル学会のジンポジウム「歴史意識について」において、栗原は、「精神と世界-歴史的世界を創建する神話としての超越論的観念論」を発表。歴史が、自己意識の歴史として「知」に内面化されることを通して、量的な蓄積を重ねる進歩ではなく自覚の深化としての「歴史」モデルを、超越論的観念論が実現したことを明らかにした。伊坂青司は、2007年12月8日、日本女子大学で開かれた日本ヘーゲル学会+シェリング協会合同のクロス討論「神話・宗教論」において、「『新しい神話』構想とキリスト教-シェリングとヘーゲルの分岐」を発表。「神話」を実現しようとするシェリングの超越論的観念論と、「神話」を合理化して歴史哲学を構築しようとしてヘーゲルとの違いを際立たせることで、「変化」としての「進歩史観」、さらに「新旧論争」とは別のパラダイムである「展開」としての「自己意識の歴史」を際立たせることが出来た。 さらに、ヨーロッパでの実地研修を通して、古代から中世にかけての芸術作品が「物語」を具現化しようとしているのに対し、近世初頭の作品は「理念」を表現しようとしていて、さらに近代の作品は「興味・関心」を惹くことを目的として、現代にあっては、「形・デザイン・格好」が自立化していることを確認、芸術のパラダイムが大きく変貌している以上、「新旧論争」におけるような古代と近代の優劣比較は成り立たないことを、共同研究の共通了解とした。 本研究を通して、「知の基礎づけ」とみなされてきた超越論的観念論が、実は知の「基礎づけ」ではなく、「知の「自己組織化」であることを明らかにしたことは大きな成果だと信じる。超越論的観念論は、「進歩史観」を乗り越え、歴史を「自覚」へと内面化する試みであったことを示し得たことが、従来の教科書的理解に大きな変更を迫る意義ある研究であったことを、学会での反応から確証した。
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Research Products
(16 results)