Research Abstract |
1.出版と庶民教化 明治期において,新聞紙が庶民の読書文化とどう関わり合ったかを検証するために,『絵入自由新聞』といういわゆる小新聞を対象に漢語(一般名詞,固有名詞,活用語等)で和語(俗語)による振り仮名が施された語彙を抽出し,整理を行った。明治16年から同21年までの発行分からサンプルを取り,多くのデータを採取した。 また前年度に引き続き,民間教訓書から儒家の言論,維新期以降は初期新聞の雑報,論説,投書,広告欄,太政官の出版にかかわる通達と公文書などから,出版と出版流通(新聞雑誌をふくむ)をめぐる言説を収集解析した。 2.寓意言説の展開 前年度に引き続き,「寓意」的叙述による教訓と物語を単行本にかぎらず,儒者の詩文集,各地の小新聞に掲載された投書など,さまざまな発信媒体から調査収集し,資料化することに努めた。近世期小説にみる従来の「寓意」言説との相違を測りつつ,近代特有の世相と生活意識に対する当時の思考言論を解明する材料として重要であり,ここに力点を置き続けることの必要性を痛感した。 3.都市風俗誌〔明治版繁昌記モノ〕の系譜 天保年度に刊行された『江戸繁昌記』(寺門静軒著,5編5冊)を始めとする「繁昌記モノ」の調査収集を続行させながら,それらが当時の読書文化においてどのように受容されていたかを検討した。文久元年『横浜繁昌記』(柳河春三著,1冊)に始まり,明治10年代までに30種類以上の『繁昌記』が漢文または日本語で書かれ,刊行されたが,写本で伝わる類似作とあわせて豊穣な文献群であることは,基礎的な書誌調査を重ねるなかで徐々に見えてきた。 4.文人会合の「図像化」 18世紀後半の京都に端を発する書画会という,日本独特の芸術制作と鑑賞の場について,近年各方面から報告がなされているが,今年度本研究においては,書画会が絵画および版画,挿絵に描かれるようになった歴史的背景を調査し,庶民が集うパブリックな文化事業を図像の制作と受容に絞って検証した。
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