Research Abstract |
今年度は,8回の研究会,国内1工場と1研究所への訪問調査,および中国深馴への6企業への訪問調査を実施した。文献研究等の結果も踏まえて,研究成果として得られたおもな知見は,以下の通りである。パソコンは多くのモジュールから構成され,そのイノベーションの特徴は各周辺機器・モジュールの発展のなかで展開されている。その中心にあるのが,CPUである。CPUは,高速度化という発展傾向を持ち,それはPCを多機能化,汎用化させる方向で発展させてきた。またCPUの高速化に対応して多種多様な周辺機器との接続が不可欠であり,そのためにはCPUとの接続の規格をあらわすバスアーキテクチャの発展が必要である。このバスアーキテクチャの進化がPCのイノベーションの段階をなすものと考えられる。このPCの発展を主導したのはインテルであり,マイクロソフトであった。CPUの高速化は,インテルにとっての差別化の源泉であり,高速化実現には,CPUを活用する周辺機器も高度化・多様化させ,ひいてはPCを汎用化・多機能化する方向をPC産業全体で志向する体制を構築する必要がある。しかしPC産業はきわめて分業化された産業構造を持つがゆえに,産業発展のコントロールは困難である。インテルは,90年代において,PC産業を構成する諸企業群がともに拡大成長していくようなリーダーシップを取りながらPC産業のイノベーションを主導し,産業全体を成長軌道に乗せていった。この過程は,同時にグローバルなイノベーションプロセスを実現する国際的な分業体制の構築と一致している。とりわけアメリカ-台湾-中国-インドの間での人的交流=知識の移転を伴う,各モジュール,部品の開発における細分化された分散的な分業構造と,製造面における台湾系を中心とする大規模受託製造業の集中構造が形成されていった。この過程は同時に迅速に開発を進める構造的仕組みの形成でもあった。
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