Research Abstract |
新しい原理に基づくレーザーであるポラリトンレーザー実現の候補として,GaN系の多重量子井戸がある.しかし,現状では,以下の問題点が存在する.1.多重量子井戸全体にまたがる貫通転位が存在する.2.井戸とバリアの格子不整合のためにピエゾ電界が生じ,励起子の振動子強度を低下させる.3.井戸ごとに組成揺らぎが生じ,異なる井戸同士のポラリトン結合を妨げる.この3つの問題点のうち,「1」と「2」は,GaNをナノコラムにすることで克服できている.したがって,本研究では,「3」に重点を絞って研究を進める.すなわち,本研究課題の目的の第一は,「GaN多重量子井戸ナノコラムにおいて井戸垂直方向に光を介した励起子間の輻射結合,すなわちポラリトン結合が実現することを確認する」ことである.その目的に向かって,平成18年度はポラリトン結合の特徴を見いだすための実験をいくつか行った.しかし,残念なことに,そのような特徴を見いだすことはできなかった.その理由として,ナノコラムという幾何学的特徴に起因する光物性が予想していた以上に複雑であったことが挙げられる.GaNナノコラムの幾何学的な光学特性の特徴として,以下のことが判明した. 1.ナノコラムの直径が小さくなると,コラム表面の効果が大きくなり,側面からの発光が顕著になる.その結果として,通常はc軸に垂直方向に双極子モーメントを持つA励起子しか観測されないが,側面から光るB励起子,およびC励起子が観測にかかるようになる.つまり,ナノコラムの発光では,側面からの成分を十分に考慮する必要がある. 2.GaNのA励起子が2個束縛した励起子分子の束縛エネルギーは通常5〜6meVであるが,ナノコラムでは10meV以上と大きいことが判明した.励起子分子の大きさは10nm程度と予想され,コラムの直径は100nm以上あるので,量子閉じこめが効いている領域ではない.それにもかかわらず,束縛エネルギーが大きいということは,見かけ上の大きさよりも小さいポテンシャルがあることを示唆している.
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