Research Abstract |
量子ゆらぎが超伝導体の渦糸ダイナミクスに及ぼす影響,あるいは絶対零度近傍に存在する量子渦糸液体(QVL)相(渦糸固体が量子ゆらぎにより融解した渦糸液体相)における渦糸ダイナミクスがいかなるものかは,^4Heの超流動とのアナロジーあるいは巨視的量子トンネルの観点から興味がもたれる。しかしこれらの問題は,理論・実験共,未解明である。本研究では,熱的渦糸液体相からQVL相への移り変わりに伴う渦糸ダイナミクスの変化を,渦糸フローに伴って発生する電圧ノイズを中心とする動的測定によって明らかにすることを目的とした。従来は比較的ピン止めの強い渦糸グラス系を調べてきたが,一般にピン止めの強さは渦糸状態に大きな影響を及ぼす可能性がある。そこで本年度は,これまでの試料よりピン止めの弱いアモルファスMo_xGe_<1-x>膜を用いた。その結果,やはり極低温高磁場域にQVL相が存在すること,およびQVL相において異常な渦糸ダイナミクスが現れることがわかった。すなわち,これらの現象はピン止めの強さに依らない普遍的現象であることがわかった。ノイズスペクトラムの解析から,この異常な渦糸ダイナミクスの起源として,数千個の渦糸バンドルの量子トンネルを提案した。 さらに,極低温の渦糸固体相におけるダイナミクスも調べた。モードロック共鳴法を用い,フローさせた渦糸系が駆動力(速度)増大に伴って格子を組む動的秩序化現象を,極低温域(<0.1K)において初めて観測することに成功した。また一定温度で磁場を上げ,ある磁場を境に,フローさせた渦糸系の格子の秩序が高速でも回復しなくなる動的融解現象を観測した。さらに,極低温では静的な融解磁場よりも低磁場でこの動的融解が起こること,すなわち,(静的な)固体相であっても,フローさせた渦糸状態が量子的な液体フローになっている異常な磁場域が存在することを初めて見出した。
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