Research Abstract |
長野県の中新統別所層および高知県の白亜系中村層のメタン湧水性石灰岩体において,岩相・化石相を補足調査した.その結果,泥水噴出を指標する岩相型を両石灰岩体で共通して認定できた.そして,それらの岩相を化石相に対応させ,各時代の湧水環境を復元した. 中新統別所層においては,石灰岩体形成初期では小規模かつ一時的であった泥水噴出口が,後期になると湧水通路が石灰岩体間に限定され,より集中・安定化することが示された.なお,安定同位体分析・X線回折分析の結果とあわせると,湧水活動は岩体形成初期~後期にかけて常に存在していたこと,炭酸塩鉱物は堆積物表層下で形成されていたことがわかった.化石相については,初期においてはシロウリガイ類の単調な群集であるが,後期になるとシンカイヒバリガイ類など構成分類群が多様化する傾向があった.これらの結果,シロウリガイ類は不安定・安定双方の湧水活動のフェーズに適応していたことが示された.一方,白亜系中村層については,メタン湧水の証拠を示すような炭素安定同位体比は続成作用の影響で得られなかったが,自破砕構造が認められるなど別所層と同様に地下泥水の噴出があったことがわかった.しかしながら,その化石相は,中新統別所層とは大きくことなり,チューブ状化石密集帯に始まってハナシガイ類優占群集へと変化するセットからなる. 化学合成化石群集の分類構成は後期白亜紀以降に大きく時代変化していくが,本研究ではその実体を湧水の活動様式や地下断面とあわせてとらえることができた.とくにシロウリガイ類は新生代以降に爆発的に繁栄したが,その原因については未詳であった.本研究はこの問題に対して,「シロウリガイ類は経路不安定な湧水を利用でき,利用可能な湧水場を従来の化学合成二枚貝に比べて拡大させたことにある」とする仮説を提示した.
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