Research Abstract |
粘性流体の運動を支配するナヴィエ・スト-クス方程式の解の唯一性は, 流れの強さを示すレイノルズ数が極めて小さい領域での2次元の場合にのみ証明されているだけで, 一般には解の多重性によって特徴づけられている.たとえば, 解の分岐として流れの安定性を考える場合, 対象となる基本状態(層流)に擾乱を加え, レイノルズ数を徐々に増加させていくと, ある場合には, 無限小の擾乱に対しては擾乱エネルギ-が指数関数的に減少し(線形安定性)基本状態は回復されるが, 有限振幅の擾乱に対しては別の解に移行する亜臨界分岐, また別の場合には, 擾乱エネルギ-が指数関数的に増加し(線形不安定性)流れが基本状態から別の解に移行する超臨界分岐が起こる.無限小擾乱の時間発展が指数関数的な減少から増加に移る際に通過する成長率が零となる状態を臨界状態, そのときのレイノルズ数を臨界レイノルズ数と呼び, 臨界状態では基本解は中立安定である.臨界レイノルズ数付近の領域で, 基本解以外に別の解(2次流れ)が, 亜臨界分岐の場合は臨界レイノルズ数より小さい領域で, また, 超臨界分岐では大きい領域に存在し, 解の唯一性が保てなくなる.特に, 基本流がどんなレイノルズ数に対しても中立安定性を呈さないような流れに対しては, 臨界レイノルズ数は無限大であり, 臨界レイノルズ数の近傍で擾乱を振幅展開する弱非線形理論は適用することができず, 非線形問題としての数値解析に頼らざるを得ない.基本流から分岐した2次流れがいつまでも安定で存在することはなく, より高いレイノルズ数でその安定性を失い, 3次流れ, 4次流れへと分岐を繰り返し, ついには乱流状態に遷移する.分岐する流れが高次になるに従い, その空間的構造は逐次対称性が失われより複雑になるため, より膨大な計算量が必要となる. 本研究の目的は, 以上に述べた流れの非線形安定性問題におけるナヴィエ・スト-クス方程式の解の多重性と, 層流から乱流への遷移現象との関わりを, 特に, 境界〈壁面〉で囲まれたせん断流について理論と実験の両面から解明していくことである.研究対象とした流れは以下のとおりである (1) 平面クエット流 (2) 回転平面ポアズイユ流 (3) 矩形ダクト内流れ (4) 成層流の回転2重円筒間流れ (5) 自然対流によって引き起こされるせん断流 (6) 内部加熱による対流によって引き起こされるせん断流
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